Vol.17
おーい!!荷物が届かないよ、困ったなあー
倉 持 隆 夫

 僕の大好きな散歩道、ムリージョ庭園の木々も少しづつ色づいて来たよ。スペイン最大のデパート、エル・コルテ・イングレスの婦人服売り場やシエルペス通りの高級ブテイックもすっかり秋物や冬物に衣替え、温暖のセビージャにも本格的な秋がやってきたんだ。

 秋の気配が近づくと、乾燥しきったセビージャにも恵みの雨が降り、ほこりを被ったオレンジの樹が緑を取り戻す。雨の後のセビージャの街はしっとりとして風も冷たく、とても気持ちがいいよ。

姪夫婦がバカンスにやって来た

 そんな折、僕の姪、中村元紀、加奈子夫婦がやって来た。共働きの彼等夫婦は夏の間、猛烈に働き、やっと遅い夏休みがとれてバカンスに来たんだ。

 彼等は3年前にグラナダとマラガの山間にあるボバディージャで結婚式を挙げたんだ。ボバディージャは僕らの住むセビージャからバスでおよそ2時間半の距離だ。僕ら夫婦も招待されて祝福に行った。彼等は東京から10数時間もかけて両親や友人たちと一緒にボバディージャに到着したが、ボバディージャ・ホテルの日本人を含むスペイン人達の結婚式スタッフが親身の世話をしてくれて、長旅を忘れさせるサービス精神に大満足、思い出に残る結婚式だったんだ。

 結婚式のハイライトはオリーブの樹の植樹だ。30センチほどのオリーブをボバディーャの大地に植えたんだ。末永く、中村元紀、加奈子夫婦と共に成長しましょう、というわけだね。この企画性と親身なサービスの評判を聞いて、高級避暑地、ボバディージャ・ホテルで結婚式を挙げる日本人カップルが年に60組以上あるそうだよ。

 彼等の今回の旅の目的は、思い出いっぱいの結婚式から3年を経て、オリーブの樹がどのぐらい成長しているかを見ることにあったんだ。二人は東京からロンドン、マドリッド経由でセビージャ入り。一刻も早く、成長したオリーブの樹と対面したかったに違いない。

カバンが戻らないままボバディージャへ

 ところが、旅行カバンがセビージャ空港に届かない。イベリア航空がロンドンのヒースロー空港から積み忘れてしまったんだ。この積み忘れ事故はしばしばあることで、旅行者の悩みの種なんだ。とくに日本からセビージャ迄直行便が無いために起こる事故なんだよ。

 「イベリアの荷物係、しっかりしてくれよ」と言いたい。

 姪夫婦はセビージャの我が家に3日間滞在し、セビージャを観光した後、ボバディージャに行く予定を経てていたので、ひたすら旅行カバンの到着を待った。しかし3日経っても旅行カバンが来ない。

 予定は変えられないので、下着や洋服を最小限買い求め、彼等は待ちわびるオリーブの樹に対面するためボバディージャに向かったよ。僕らのおみやげに、東京で買った辛子明太子や納豆や山葵付けが腐らないかどうかをさんざん気にしながらバスに乗り込んだよ。本当に罪な事故だよね。

 旅行カバンはなんと5日後に我が家に到着した。二人に了解を得て食料品を取り出したが、なんとか賞味期限ぎりぎりで大好物の明太子その他も口にすることが出来たんだ。

高級リゾート、ランサロテ島って知ってるかい?

 ツイてない元紀、加奈子夫婦とは常夏の島、ランサロテ島で合流、彼等は旅行カバンと1週間ぶりで対面、さぞかしホッとしたことだろう。そして、このランサロテ島が彼等の気持ちを充分に癒してくれたんだ。旅の疲れと不自由な毎日で積もったストレスを燦燦と輝く幸福の島、ランサロテの太陽が吹っ飛ばしてくれたよ。

 ランサロテ島は日本の観光案内書にも紹介がないぐらいだから日本人には余り知られていないが、ヨーロッパでは高級避暑地として、あのコスタ・デル・ソルにも劣らない高級リゾートの島なんだよ。

 スペインといっても、もはやアフリカのモロッコに近く、マドリッドから空路2時間30分、同じスペインでありながら1時間の時差があるんだよ。大西洋に浮かぶ火山の島で、国立自然公園のモンターナ・デル・フエゴにはなんと300以上のクレーターがあり、まるでSFの世界、眼が慣れるまでは異様な風景に仰天したよ。

 でもこの火山灰の丘陵地帯をラクダに乗って旅をするんだが、ラクダの乗り心地もまあーまあーだね。揺れに任せて果てしなく続く溶岩台地を眺めると、もう気分はアラビアのロレンスだよ。実に気分よかったなあー。姪夫婦たちも本当に楽しそうで、すでに旅行カバンのことは忘れてリラックス。

そして姪夫婦のスペインの印象は?

 滞在ホテルはヨーロッパの金持ちに負けてなるものかと見栄をはり、5つ星のホテル・ グラン・メリア・サリナスに宿泊、プールサイドもプライベイト・ビーチも若い女性はトップレスがウヨウヨ、元紀くんとニヤニヤしながら日光浴に明け暮れ、真っ黒け。

 ディナーは世界各国の料理が日替わりで食べられるビュッヘ・スタイルを選択。ランサロテ島の特産、ビノ・ブランコ・セコも美味い。4日間の滞在で日本人の旅行者と一人も出会わない、スペインでは珍しい土地で姪夫婦と過ごしたが彼等のスペインの印象を聞いてホッとした。

 「旅行カバンはなかなか出てこなかったけれど、3年ぶりで見た『僕らのオリーブの樹』が2メートル位まで成長、しかも青い実を沢山つけていたんでとても嬉しかった。ぼくらも結婚3年目、そろそろ子供が欲しいなあ」と。