アンダルシアの長い長い夏が漸く終わろうとする10月のセビージャ。
そう、秋がやってきたのだ。秋の気配は、朝夕の涼しい風と、夜明けが遅くなる事、夜の帳が早めにやってくる事で判る。寝室側のパティオからは日本と同じように虫の囀りが聞こえてくるから不思議な感じがする。スペインにもコオロギやスズムシがいるのだろうか…。
そんな秋の入り口の穏やかな水曜日。
この日は午後5時からインテルカンビオ[交換語学学習]があるのだ。スペイン語の先生は勿論、仲良しのアナである。
アナ先生は、近頃は難しい文法の勉強は止め、というより、「トチは勉強するが、タカオは勉強が嫌い」という事が判ってしまい、積極的に文法を教えようとしないで、2時間をスペイン語だけで過ごし、僕も積極的に会話に飛び込んできなさい、という風に勉強方法が変わってきている。
「タカオ、トチ(登史・女房の名)!! サラゴサ旅行のスケジュールが出来たわよ!!」と、アナは僕らにA4の刷り物を手渡した。
「エッ、もう出来たの…? サラゴサ万博は来年の夏だよね…」
「そうよ、サラゴサは小都市だからホテルも少ないのよ。万博入場券も今予約すれば安いのよ。また、65才以上は25%引きだから、タカオ、年齢を確認してね…。日本から来るグループは8月でしょ。スペインも祝日ありのバカシオネの季節だから、大混雑なのよ。早く予約しなきゃ…」
1年後の旅行計画を急ぐ理由
アナと従姉妹関係にあるロシオの2人は、僕らの大の仲良し。このエッセイにも度々登場するが、今や、僕らのセビージャ生活には無くてはならない友人で、共に信頼し合う仲間である。アナは比較的自由な時間があるが、ロシオはアンダルシア州政府に勤める女性部長という役職にある。彼女たちがそろって“日本びいき”なのも、仲良しに拍車がかかった原因である。
親しくなった彼女たちとは“日本人と一緒に旅を”を楽しんでいる。
一昨々年は“愛知万博と日本列島珍道中”を、去年は“チュニジア旅行”を実現した。そして、来年は“サラゴサ万博旅行”を前もって計画していたのだ。
旅の企画やホテルの予約などは、全てアナとロシオが仕切るのである。二人とも、大の旅行好きで“高級感を味わえるリーズナブルな旅行”を探し出す名人なのだ。
探し方は、インターネット情報を駆使したり、旅行エージェントに勤める友人たちを訪ね周り、情報収集するのである。
しかも今回のサラゴサ旅行は、特にスペインの国内旅行だから、スペイン人のアナとロシオに全てをお任せする方が賢明なのだ。
この旅行は、勿論、僕らと4人だけの旅行ではなく、アナ達が日本旅行をした際に付き合ってくれた日本の友達の参加も大歓迎の旅行なのだ。中でも、日本の旅にもチュニジアの旅にも参加した通称“クマさん・ナオちゃん夫婦”は欠かせない旅の仲間である。
で、前回、日本への一時帰国の際に“サラゴサ旅行”の希望者を募ったら、5組のご夫婦と、姪の友人、女房の弟が参加することになり「日本グループは12名です」とアナにメール送信していたのである。
それにしても、来年の夏の旅行なのに、もう計画が出来上がっているとは…?
如何に何でも早すぎるのでは…?と僕は思った。
何事にも“のんびり”“ゆっくり”のセビージャっ子なのだが、どうもアナとロシオはセビージャ気質とは違う性格のようで、日本旅行の際にはマドリッド〜成田間の飛行機JALを一年半前から予約していた程、用意周到な性格なのである。
まさか!!アナの心配が的中…
アナの説明が始まった。
「日本グループが12名、セビージャ・グループが4名、計16名ね。タカオのメールを受信してから直ぐにサラゴサのホテルに問い合わせたのだけど、五つ星も四つ星も、ホテルは満員よ。予約が遅すぎたわ。なにしろサラゴサ万博は、日本を始め、世界の100以上の国から参加があるので、その関係者の宿泊ですでに一杯なのよ。だから、Media・PENSION[メディアペンシオン・長期滞在用小ホテル]を借りることにしたわ。レストラン付、設備はホテル並のペンシオンを探すわよ。今週中に予約しないとね。それから、マドリッド〜サラゴサ間のAVE[超高速列車]の予約、オレゴン州・モナステリオ・デ・ピエドラ国立公園内のホテルの予約もね…。タカオは大至急、日本グループに連絡を取ってね」
アナが続けて言う。
「タカオ、チュニジア旅行で世話になったコルテ・イングレス旅行社のアウロラが言っていたわよ。サラゴサ万博は大規模なイベントで、すでに世界各国の旅行社にPR作戦を展開しているそうよ。サラゴサ万博は来年の6月14日に開幕するけど、世界中の見学者は“夏休み”に集中するそうよ。私たちの日本グループも8月よね。成田〜マドリッド間の航空券往復チケットは早く予約しないとダメよ…」
僕は、日程だけ決めておけば、航空券などは来年の春にでも予約すれば大丈夫だろう…と、思っていたが、アナの話が余りにも真剣そのものだったので、その場でパソコンに向かい「来年の夏の旅行だが、急いだほうが良さそうだよ…。日程の決定・成田〜マドリッド間往復航空券の予約を直ぐにやってください」という内容の原稿を書き、日本グループの全員に添付送信したのだった。
その結果…!! まさかと思っていた事実が判明した。アナの心配が的中したのだ……。
参加予定の日本グループ
その前に“日本人と一緒に旅を”の参加メンバーを紹介しておこう。
来年のサラゴサ旅行は、日本からのグループが、僕の富山の友人で家族ぐるみの付き合いをしている小泉邦明・敏子夫妻、小泉家の仲良しグループの酒井真・俊美夫妻、坂本憲史・由美子夫妻、東京からは、これまた家族中が世話になっているクマちゃんこと岡村詳彦・尚子夫妻、そして身内の、家内の姪・中村元紀・加奈子夫妻、加奈子の友達、清水みどりさん、家内の弟で加奈子の父親・藤原恒雄の計12名である。これにセビージャからアナ・ロシオそして僕ら夫婦が加わり16名のグループ旅行になった。
最初に返信メールをくれたのは小泉邦明さんだった。
「いゃあ〜大変な事になりました!! クラさんの指定した全日空便はもう満席状態でした。インターネットで予約しようと試みたのですが、来年の8月だというのに、もう、席が無いのです。埒があかないので、直接旅行会社に行って予約してきます」とのメール内容である。
僕は、日本グループの中に初めてスペインを訪れる人もいるので、日本の航空会社の便が良いだろう、と判断し、成田〜マドリッド間往復の全日空便を紹介したのだ。
「まさか、来年の8月の予約なのに、まだ、11ヶ月も前なのに、完売とは…」
僕は、アナが心配した通りになったので、しばし、呆然自失の状態だった。予定の飛行機に乗れなければ、アナとロシオの計画が前に進まないのである。
しかし、小泉さんからの再度のメールで「予定の日には必ずマドリッドに到着します。マドリッド行きの航空会社は色々ありますから、日本グループ12名は笑顔でマドリッドのバラハス空港に到着しますよ。アナとロシオに、ホテルの予約や万博入場券の予約など進めるように伝えてください」との内容だったので、ひとまず安心したのである。
2008サラゴサ万博について
さてサラゴサ万博について、ちょっと、ふれておこう。
手元に、エキスポ・サラゴサ・2008プロジェクトとスペイン観光局の資料がある。
それによると、“サラゴサ国際博覧会”は2008年6月14日〜9月14日まで、93日間にわたって行われ、メイン・テーマは「水と持続可能な開発」4つのサブ・テーマは「限りある水・生きるための水・水の景観・町を結ぶ水」である。私たち人間が生きていく上で必要不可欠な“水”に関してさまざまな展示を行い、今、世界中で地球温暖化が問題視されている折、水の大切さを訴えていくものなのであろう。
ところで、アラゴン州を訪れる日本人旅行者は稀である。それはマドリッドからバルセロナに向かう途中の山深い土地なので、観光に訪れる日本人は少なく、通過するだけだからである。日本の観光案内書にも、州都サラゴサ市だけはほんの少し紹介されているが、アラゴン州全体の紹介は無いにひとしい。
しかし夏場のアラゴン州は、特に山好きの人たちにとっては“アラゴン州は自然の宝庫”なのである。
中でも、モナステリオ・デ・ピエドラ国立公園はトレッキングのメッカとして有名で深い森、渓谷美、そして遥か彼方のピレネー山脈の美観を楽しむことができる。これは勿論、夏場だけの話で、冬は深い雪に閉ざされ、人々の往来を許さない厳しい地方なのだ。
開催地のアラゴン州の州都サラゴサはマドリッドとバルセロナの中間地点に位置し、スペインでは、マドリッド、バルセロナ、バレンシア、セビージャに次ぐ5番目の都市である。人口は約65万人で、開放的で活気にあふれ、進取の気風みなぎるサラゴサは、スペイン国内で、最も高い経済成長率を遂げている都市で、現在、ヨーロッパ各国、いや世界各国から市場拡大という点で大いに注目されています。
サラゴサの歴史を辿ると、サラゴサにはスペイン最大級のエブロ川が街の中心を流れ、このエブロ川の河畔に、古代ローマ人が都市を建設したのである。従ってローマ時代の香りが残った地区と最新鋭都市が入り混じった都市と言える。ローマの遺跡は文化資産の指定を受け、ローマ時代の劇場、浴場、公共広場が45ヶ所もある。
また、不滅の画家ゴヤの生誕地としても有名である。
従って、サラゴサ旅行は万博見物だけでなく、国立公園のトレッキング、古代ローマの遺跡めぐりなど等が楽しめるのだ。
現在のアナとロシオの計画はこれだ!
さて、注目の“日本館”は、サラゴサ万博会場の中でもスペイン政府から破格の扱いを受け、最大級の政府パピリオンとして設置されます。
主な展示構成ですが、まず、水と共生してきた日本人の伝統的な知恵と技というテーマで、江戸時代の暮らしや文化・技術を紹介します。次に、水と持続可能な開発をテーマに、日本の先進的な技術・環境・エネルギーへの取り組みを紹介します。多目的ホールに於いては、日本の多彩な魅力や市民活動を紹介します。レストランは全て日本食になり、食を通じての日本文化を紹介します。最大の見所は、シアターで、大量の水が10数メートルの高さから、水しぶきとともに流れ落ちる“滝”を実現させ、醍醐味を味わうことが出来る演出になっています。
以上がスペイン国から発表された資料の抜粋だが、来年になれば、日本のメディアもサラゴサ万博に注目するだろうから、詳しい内容の観光案内書が、日本の店頭に並ぶのではないか、と思う。
それにしても、来年8月の成田〜マドリッド間の飛行機が確保しにくいというのは、どういう理由なのか…? まさか、サラゴサ万博開催だからじゃないと思うが……。
アナとロシオの計画表を紹介しよう。
第1日目 |
マドリッドのホテルで日本グループと合体。アトーチャ駅近くのホテルに宿泊。 |
2日目 |
アトーチャ〜サラゴサへ移動 AVEで1時間半
サラゴサ市内観光[ピラール聖母教会・カテドラル・歴史地区]サラゴサ泊 |
3日目 |
EXPO ZARAGOZA 2008見学 一日中 サラゴサ泊 |
4日目 |
バスにてフェンデトドスに移動 ゴヤの生家を見学
アルファヘェリア宮殿見学 サラゴサ泊 |
5日目 |
サラゴサ〜モナステリオ・デ・ピエドラへ移動
ピエドラ修道院見学後自由時間 ピエドラ修道院のホテル泊 |
6日目 |
カラタジュへ移動
ピエドラ国立公園を1日中トレッキング カラタジュ泊 |
7日目 |
カラタジュ市内観光
アジュブ城・サンロケ教会・歴史地区 カラタジュ泊 |
8日目 |
カラタジュ〜マドリッドへ移動
日本グループはマドリッドから成田へ帰国
セビージャグループはマドリッドからAVEでセビージャへ。 |
今、アナとロシオは、ほぼ1年先の旅行だというのにホテル探しに懸命である。サラゴサ万博の入場券は、すでに、第2期前売りを利用して格安で確保してくれた。
アナとロシオは会うたびに言う。
「タカオ!! 日本グループの、成田〜マドリッド間往復航空券は予約できたの……」と。
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