Vol.127

“メトロセントロ”の誕生
生まれ変わったセビージャの中心地

倉 持 隆 夫


 今、セマナ・サンタの真っ最中である[今年は4月1日から8日迄が聖週間]。

 こうやって原稿を書いていても、僕の耳には、高らかなトランペットの音色と地響きが起きそうなホルンの低音が哀愁を帯びたメロディを奏で、聞こえてくる。ついキーボードを叩くのを止めて背筋を伸ばし「パソ・山車がやってくるぞ、そろそろ我が家の前に来るのかなぁ〜」と思いに耽りながら、更に耳を傾ける。

 今年のセマナ・サンタは、セビージャ市民にとっては特に思い入れが深い。

 何故なら、スペイン第四の都市セビージャは、セビージャ市内を完全に網羅する地下鉄網が来年08年秋に完成する予定で、大工事が市内の至る所で行われている。この為、セマナ・サンタのパソ、音楽隊、宗徒達が練り歩く為の“行進の道”も掘り返され「今年は行進が出来ないのではないか」という不安があったからである。

 しかし、市内の数あるカトリック教会から繰り出す信者の願いが叶なって、カトリック宗徒の総本山、カテドラル・セビージャ前の“メトロセントロ”の大工事が、セマナ・サンタ開幕のほぼ1ヶ月前に完成、信徒達をホッとさせたのだった。

 そして、美しく近代都市に生まれ変わったセントロ地区が彼等の初舞台にもなったのである。

 セビージャ市民の100%近いカトリック信者がセマナ・サンタの中止を許すわけがない。またセビージャ市当局もセマナ・サンタは世界一規模の聖なる祭りであり、世界中から観光客を呼び寄せる事が出来る大きな観光資源であることを認識しているので、行進のハイライトとも言うべき、セントロの行進だけは可能にしなければならないという使命感を持って大工事を進行していたようだ。

 市民の期待どおり、セマナ・サンタ週間のほぼ1ヶ月前には、熱狂的なセマナ・サンタのファンが大歓声を浴びせる“行進の道”最大の花道、カテドラル・キリスト降誕の扉口側のコンスティツシオン大通り、そしてバソが流れるプエルタ・デ・ヘレス広場、更にはセビージャ市内の中心地にある市民や観光客の憩いの場プラサ・ヌエバ広場が、ほぼ完成したのだった。

 そして、セマナ・サンタ開幕の前日、3月31日には工事関係者の姿が完全に消え、見事に新しいセビージャ・セントロが出現したのである。

わずか1年足らずで
セビージャのセントロは生まれ変わった!

 思えば昨年のセマナ・サンタ週間が終了した翌日の4月17日月曜日午前8時、突然、コンスティツシオン大通りはバス、大型車両、タクシー、自家用車など全ての車両を交通止めにし、バリケードが張り巡らされた。そして大型のブルドーザーがのっしのっしと大通りの真ん中に整列、次に大型掘削車が唸りをあげて、アスファルトを砕き始めたのだった。この日が2008年完成予定のセビージャ地下鉄大工事のスタートだった。

 そして1年も満たない今年の3月31日にセビージャ・セントロ地区は生まれ変わったのである。なんという離れ業…。

 そういえば、一般人がお休みの土曜日も日曜日も、工事人は一生懸命に働いていたなぁ〜。

 それにしても、こんなに短期間で大工事を完成させるなんて、セビージャ市民ならずとも驚嘆の声を上げずにはいられない。

 アスタ・マニャーナ「また明日ね…」 アスタ・プロント「その内にね…」が常識とされているスペイン人の気質からしてみれば、異例のスピード工事である。

 「なんだ、やれば出来るじゃないか…」という思いを強くしたのは僕ばかりじゃないだろう。

 でも、セビージャ市民の地元っ子たちの中には辛辣な事を言う奴もいる。

 「なに、応急処置さ。セマナ・サンタが終わったら、また掘り返すかもしれないよ」と…。

 なにはともあれ、生まれ変わったセントロの中心街は広々としていて、1年前の面影は全く無い。あらゆる車両の乗り入れが出来なくなったので、排気ガスのない街並みになったが、古都セビージャの風格ある街並みが忽然と消えてしまい、何故か寂しい。

  新都市セビージャの顔を前面に出し、近代都市セビージャを出現させる狙いがあるのだろうか…。

セビージャを路面電車が走る

 一番変化のある風景はコンスティツシオン大通りに路面電車の線路が敷かれたことだろう。

 メトロセントロの着工工事計画当初から、コンスティツシオン大通りの地下にはロマーノ[ローマ時代の遺跡]が数多く眠っている為に地下を掘り起こすことを断念、また、世界遺産であるカテドラル・セビージャの地下を掘れば、カテドラルにどんな影響を及ぼすか計り知れない、という理由もあり、路面電車を計画したのだ。

 プラサ・ヌエバ広場には始発終着駅の停車場が出来、線路が鈍く光っている。

 その線路は、コンスティツシオン大通りへ曲線を描いて流れ、カテドラル前を通過、中央郵便局前の停車場へと向かう。更にプエルタ・デ・ヘレス広場を左に緩やかに曲がりサン・フェルナンド通りへ入る。

 そして線路は、セビージャ大学前を走り、ドン・ホアン・デ・アウストリア広場を横断、カルロス通りからプラサ・デ・サン・セバスチャン駅まで続く。ここまでが路面電車である。この先から地下に潜り、リネア1という地下鉄が走る計画になっているが、目下大工事中である。来年度には、リネア2、3、4が完成予定である。

 新装なったプラサ・ヌエバ公園には数々の大きな青銅のオブジェが置かれ、春の花が満開に咲き乱れている。セビージャ・セントロの目抜き通り、コンスティツシオン大通り沿いにはライトアップされたオレンジの街路樹が点々と植えられ、今、純白の蕾の香りが道行く人を楽しませている。

何が何でも一番電車に乗る!

 さて、その注目の路面電車だが、初めて“メトロセントロ”の計画が発表された頃、市民もそして僕も「今更何で時代に逆行するような路面電車なんだ」という思いを強く持ったが、これはトンでもない思い違いである事が、その後の当局のPR版で判明した。

 それによると、路面電車は、今、“21世紀の乗り物”といわれ、非常に利点の多い公共交通機関なのである。この路面電車は次世代型路面電車システム・LRTといい、低床で揺れが少なく安全に富み、歩行通行を優先する大都会型の交通システムなのだ。

 ヨーロッパでは現在、フランス、ドイツを始め、欧米では70以上の都市に導入されている。

 このLRTは、都市中心部への一般車両の乗り入れを禁止し、路面電車専用のトランジットモールを設ける事によって、中心部を訪れる市民や観光客が増え、商店街が益々賑わいを見せる効果もある。

 いわば、路面電車を核として、歩いて暮らせるコンパクトな街づくり、つまり、世界中が抱えている高齢化社会の緩和にも役立っているのである。

 そうそう、思い出した…。

 去年、北陸を訪れた時、福井の街や富山の街で路面電車にお目にかかったなぁ〜。

 その時も「なんだか古めかしいなぁ〜」という印象だったが、今はじめて、この外国のセビージャで路面電車の効能を知ることになろうとは…。

 さて、メトロセントロの路面電車はPR版の写真によると、白のボディーに赤の縁取りが鮮やかな車体である。果たしてこの路面電車が「いつ運行を始めるのか…?」が、流行り物の好きなセビージャっ子の話題である。

 「セマナ・サンタが終わったら走るよ」とか「いやいや、来年地下鉄網の一つ、リネア1が完成した時じゃないか」等と囁かれている。

 この超近代的なデザインの路面電車が走る街並みは、世界遺産で、100年を費やして1519年に完成したカテドラルやアンティックな古めかしい中世の建物が古色蒼然と建立する古い都セビージャの街だ。

 果たして、セビージャの街とマッチングするだろうか……。

 今日現在、夢の路面電車はまだ走っていない。

 僕は何が何でも一番電車に乗るつもりだ…。