4ヶ月ぶりで日本に一時帰国した。
夏に日本へ帰るのは、僕らのセビージャ・ライフ・サイクルの中では恒例の事であったが、今年の夏は、まだ知らないヨーロッパ各地を「旅しよう」という計画を立てていたので、日本への帰省は考えていなかった。
しかし、帰国せざるを得なくなったのには理由がある。
「あの恐ろしさは二度と体験したくない」という思いがあったからだ。
その理由はVol.101『3ヶ月ぶり、セビージャからの報告。あわや逮捕のスペイン行き』に詳しく書いてある。
理由を簡潔に言えば「スペイン国は今やヨーロッパの先進国として政治の面、経済の面でも急成長。その反動で、豊かなスペインで暮らしたいという貧しい東欧諸国やアフリカ諸国の人々が不法に入国するようになった。その為、長期に滞在する外国人に厳しく対応せざるを得なくなった。長期滞在が目的の外国人は長期滞在査証が必要不可欠になったのだ。これは日本人も例外ではない」という事だ。
「寛容な国」から「法律遵守の国」へ
スペインは変貌を遂げた
これは3ヶ月以内滞在の観光客には当てはまらない。観光客は査証なしでOKである。
僕らみたいな『長期滞在者』への警告である。
かつてのスペインは、なかでも、特に親密感を抱いている日本人には、いたって寛容で、少々滞在期間が長引いても面倒な事はなかったが、近年スペイン政府は日本人に対しても厳しく対応する様になってきたのだ。
スペインに永く住んでいる日本人も「長期滞在査証[ビザ]を取得した方が安心ですよ」 としきりに言うようになった。首都マドリッドにある日本人向け旅行代理店の幹部にも「面倒ですがビザを取得しなさい」と勧められた。
Vol.101にも書いたように、僕らは何の考えも無しに、今まで5年間もの間、のんびりと、セビージャに暮らしてきた。表向きはセビージャ市民になり切って、自然のままに振舞っていた。
15年程前、フラメンコ好きの女房はセビージャ・東京を行ったり来たりしていたが、その際、思い切ってピソを買い求めた。住まいがあるので、生活費は、大手銀行に蓄えてあるユーローを小出しに引き出して、我々は生活をしていた。その間一度だってセビージャ市民に「不法滞在者」と、見られることは無かったし、当局から警告されることも無かった。
これが法律違反だとは、まるで思わなかったのだ。
査証取得のための苦闘の日々を
日記風に紹介しよう
しかし改めて考えてみれば、僕らは不法滞在者なのである。
「スペイン国は日本人の貴方がたを長期に滞在する事を認可する」という、長期滞在査証を持っていれば、何ら問題ないのだが、僕らはそれを取得しないままに過ごしていたのだ。
今まで、5年間もスペインに不法滞在していた事になる。何らお咎めが無かったので、まるで気がつかなかったというのが本音である。
しかし、冒頭に書いたように、スペインも時代が変わり、「のんびり、ゆっくり、そして大抵の事には目をつぶる感覚」のスペインから、何事にも目が行き届く煩い国になったのだ。
堅い言葉で言えば『スペイン国は法律を徹底的に遵守する国』になったのである。
『法律は何が何でも守らなければならない』という訳で、僕らは急遽、長期滞在査証取得の為に帰国したのである。
「長期滞在査証を取得するのは手続きが大変だよ!」と、仲間たちから聞かされていたが、本当に、こんなに大変な事だとは????
その長期滞在査証取得の為に費やした時間と労力を赤裸々に綴ってみよう。
というのは、僕ら夫婦の様に、定年後の老後の生活は「のんびりとスペインで暮らしてみたい」と、願望している方々が大勢いるので、参考にしてもらいたい、と思っているからだ。長期滞在査証さえ取得すれば、堂々とスペイン国で、何年でも暮らせるからだ。
長期滞在査証取得の為の日程表を改めて見ながら、日を追って記述していこう。
6月27日(火)
セビージャ〜ヒースロー〜成田経由で帰国。
6月28日(水)
スペイン大使館領事部[東京六本木]へ電話。
「長期滞在査証を取得したいのですが、必要書類を送ってください」
「書類は送りますが、11項目の書類を要するので、全てを理解できるでしょぅか。出来たら、こちらに来て、私の説明を聞いたほうが良いと思いますよ」
午前11時 四谷で南北線に乗り換え六本木一丁目で下車、スペイン大使館に到着。大使館員から、必要書類の説明を受ける。
大変に面倒な書類作成ですが、これはスペイン国の法律と規則に基づき作成されたものです。申請書類に不備・不足がある場合はスペイン本国から、貴方がたの書類が戻ってきます。審査するのはスペイン国ですから、私どもではどうする事も出来ないのです。日本人で在りながら、他所の国のスペイン国に住まわせて頂く、という、気持ちを忘れないように、よく注意して書類を整えてください」
「お願いがあります。僕らは8月30日に成田を出発すべく、飛行機のチケットも購入しています。従って、その前日の8月29日迄に、長期滞在査証を受け取りたいのですが…」
「それは無理です。あなた方の長期滞在査証がスペイン国から送られてくるのには2、3ヶ月要します。特に今の季節はスペインの役人も長期夏休みを取ります。また、9月の新学期を前にして、世界中の学生が長期滞在査証を申請しますので、スペイン本国の査証担当局は申請書が山済みされています。あなた方の査証が届くのは、おそらく9月になるでしよう」
「すでに飛行機のチケットを購入してあります。何とかしてください」
「事情は理解しますが、私どもの力ではどうする事もできません。一刻も早く書類を整えてください。必要書類をできるだけ早くスペイン本国に送るしか方法がないのです」
6月29日(木)
僕らは翌日から書類集めに取り掛かった。
必要書類で面倒な事は、夫婦の場合、夫と妻の必要書類が違う事である。僕は年金証明書を貰う為に社会保険庁に行く。
女房は配偶者である事を証明する為に、三鷹市役所へ出向き、戸籍謄本と住民票を取りに行く[650円]。
6月30日(金)
上記の書類、年金証明書、戸籍謄本、住民票は「間違いなく日本国が証明する」というアポスティール認証が必要なため、外務省証明班を尋ねる。申請して翌日配布である事を知る。
7月1日(土)
セビージャでの住居証明書が必要な為、セビージャの我が家の権利書、銀行の残高証明
関連の書類をFAXしてくれるように、イグナシオ弁護士に国際電話。原本を航空便で送ってもらう事も依頼する。
7月2日(日)
返信用定形封筒2通ずつを文房具店で買う。80円切手を4枚[720円]。大使館から渡された連絡用データーメモに記入。
7月3日(月)
午前、外務省にアポスティール認証を取りにいく。午後、無犯罪証明書を貰いに桜田門の警視庁を尋ねる。
申請して2週間後に配布である事を知るが、事情を話し「できるだけ早くお願いします」とお願いすると「理解しました。1週間後に電話ください。」と心強い返事であった。
7月4日(火)
カラー写真[4.5×3.5]を4枚。コイデカメラに依頼。15分で完成[2,100円]。ついでにバスポートのコピーをとる[200円]。
その足で武蔵野赤十字病院へ行く。健康診断書を大使館作成の雛型に基づいて、担当医師に作成してもらい、署名、押し印をお願いする[17,840円]
7月5日(水)
午前中いっぱいを費やし、査証申請書を書く。全てスペイン語の項目が表・裏にびっしり。理解できないものは辞書と格闘しながら記入する。頭が痛くなる程細かい作業だ。
7月6日(木)
海外旅行保険に加入するため、東京海上日動火災保険株式会社三鷹支店に行く。スペイン滞在中の傷害・疾病に備えての医療費及びそれに伴う日本への一時帰国をカバーする保険に加入しているという内容の証明書が必要なためである。
1年契約の保険に加入[100,000円]。
7月7日(金)
午前。苦労して記入した査証申請書をチェックして貰うために、専門家スタッフがいる太陽海外航空株式会社の日野所長を訪ねる。細かい指示をもらう。
午後。今まで集めた全書類を持ってスペイン大使館に行く。11項目にわたる書類を丁寧に点検して頂き、足りない書類のチェックをしてもらう。
「スペイン本国の査証担当局は日本語が読めないし、理解できません。従って、日本語の戸籍謄本、住民票、海外旅行保険加入権利書、年金証明書など全てをスペイン語化したものが必要です。翻訳の専門家に書いてもらいなさい」と指示される。
その足で、銀座にある翻訳専門のプロダクション日本リンガサービスを尋ねるが、上記の翻訳料金が約5万円と聞き、断念する。
その夕刻、かつてスペイン語を習っていた日本スペイン協会を尋ねる。
翻訳部門のスタッフを紹介され、上記の書類の全てが17,000円で出来ると聞いて、早速お願いする。
7月8日(土)
査証申請書を改めて見直す。スペイン大使館員に注意された部分を修正する。スペイン国の査証担当局は、空白があると疑問に思うので、全ての欄を書くように指示された。
7月10日(月)
東京海上三鷹支店にてスペイン語に翻訳された契約書を貰う。その足で警視庁に行き、無犯罪証明書を貰う。文房具店で全ての書類を4枚ずつコピー[800円]。
7月11日(火)
11項目にわたる全ての書類を再度点検してスペイン大使館に行く。
「良く頑張りましたね。私は完璧な書類だと思いますが、スペイン本国の査証担当者がOKをくれればいいのですが…。何とか8月29日迄に長期滞在査証が届くと良いですね」
僕らは力の限りを尽くして、書類集めに奔走したが、結局15日間を要してしまった。もう、精も根も尽きてしまった。
しかし、書類をスペイン大使館領事部に提出してから今日現在ほぼ2ヶ月が経過したが長期滞在査証は、未だに届いていない。
「2、3ヶ月は要する」と大使館員は言っていたが、スペインへの出発予定日が迫ってきたので、止むを得ず「出発」の決断をし、長期滞在ビザを持たずに、今回も成田を発つ事とにした。
留守宅を守る次男夫婦に「長期滞在査証が本国から届きました」という連絡が、スペイン大使館からあったら、大至急セビージャに電話をくれ」と頼みこんだ。
何故なら、長期滞在査証は本人がスペイン大使館に出頭して手渡される物なのだ。それも、2ヶ月以内という制限つき。
僕らは従って2ヶ月以内に再び日本へ帰らなくてはならない。
やや不安を抱えながらのセビージャ行きであった。
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