Vol.109
酷暑を凌ぐには“サルモレホ”が一番!!
「美味い!」夏バテ防止には最適だ!!
倉 持 隆 夫


 「狂った5月」「猛暑に泣く6月」「旱魃(かんばつ)の不安7月」

 今年もアンダルシアは雨が極端に少ない、限りなく暑い夏を迎えている。この暑さはアンダルシアだけではなくヨーロッパ全土を襲い、6月9日に開幕した“ワールドカップ06ドイツ大会”も「暑さ」との戦いであった。

 気温の高い午後3時に開始された日本対オーストラリア戦は残り時間6分まで日本がリードしていながら、僅かの時間に3点を入れられ逆転負けを喫した。セビージャで一緒に観戦したサッカー通のカマレーロ、ホアンは「暑さ負けだよ。日本はスタミナが無いよ!」とハッキリ言った。

 更に「日本は、サッカーは無理だよ。頭がいい日本人はコンピューターを作っていればいいのだ!」とも言った。

 僕は頭に気ちゃって、以来ホアンとは口を利かない。

7月、8月のセビージャは
日本から来るところではないよ!

 セビージャの夏は確かに暑い!

 観光客動員数がスペイン一のセビージャも、フライパンの底をひっくり返したような暑さの7月、8月は観光客が極端に減る。それを見越してか、観光客相手のレストランやバルは店を閉めてしまう。『バカシオネ(休暇)の為休み、9月に開きます』という張り紙を残して。

 余談だが、2年後に開通予定の地下鉄工事現場も真夏期間は作業員がいない。現場の片隅に放置されているブルドーザーのノブに『バカシオネ』の張り紙がくっ付いてあった。

 これを見るセビージャ市民達は「あぁ〜納得…」といった風情で当たり前のように通り過ぎる。7月、8月は『働かない』のが常識なのだ。

 そこで、これまたご忠告だが
 「夏休みを利用してスペイン旅行を考えている日本の皆さん!真夏のセビージャは来るところではありませんよ!高いお金を払って海外旅行するのだから、涼しいところへ行きなさい。コスタ・デル・ソルや北部を訪ねなさい。ただし、バーゲンセールが目的の旅行者は大歓迎。7月、8月は一流商品が半値以下になりますよ!!」

セビージャには
韓国焼肉の店がないんだ!

 さて、こう暑いと食欲が減退するが、日本だったら、冷奴に刻んだミョウガをたっぷり乗せて食べたり、氷を浮かせた素麺も良いし、冷やし中華も食欲が湧く。偶には、うなぎの蒲焼も美味いね。でも、いずれもセビージャにはない。

 そうそう、夏に食べる韓国風焼肉カルビの炭火焼も最高だね。勿論生ビールもだよ。この韓国焼肉は国際的な料理かと思い、セビージャでも食べられると確信していたが、マドリッドにはあるがセビージャには一軒も無いのだ。

 その代わりに、中国料理の店はあちこちに在る。しかし、ラーメンを期待していくとダメ、ラーメンという料理は無いのだ。鳥、牛、海老がたっぷり入ったヌードルスープならあるよ。

 一説によると、中国マフィアが本格的な日本料理と韓国焼肉の店を排除しているとのこと。「お客を盗られてしまう」という浅羽かな考えによるものだが、確認できないが多分本当の話だと思うよ。

セビージャの暑い夏を乗り切る
とっておきの料理

 さてと、無い物強請りしていてもしょうがない。数々の美味しいスペイン料理の中から、特に夏向きの料理を食べようじゃないか。

 そこに登場するのが“Salmorejo サルモレホ”である。

 この料理は、よく夏のスープとして有名な、冷たいスープ“Gazpacho ガスパチョ”とよく似ているが、サルモレホはセビージャなど、暑い、南部アンダルシア地方の特別なソース料理なのだ。

 この料理を一言で表現すると『真っ赤に熟れたトマトソース』と言っていいだろう。ソース状のものだから、スプーンですくいながら頂くのだ。

 こちらのトマトは、日本のように、果物の様な甘さは無く、野性的な野菜そのものの味がする。そのトマトが主役の料理だから、味は、実に爽快で、食べるうちに胃の中がきれいに洗われるような、スッキリした感触を舌で味わえる。

 色もサーモンピンクで食欲をそそる。あくまでもスープではなく、一品料理なので、店によっては「トッピングは何にしますか」と聞かれる。それは刻んだハモンセラーノだったり、刻んだゆで卵だったり、あっさりと、刻んだピーマンも良いし、さらした玉ねぎも美味い。

 先程、日本のサッカーをコケにしたカマレーロのホアンは
「タカオ・サン!!(この頃、誰に教わったのか僕の名前に“〜さん”をつけるように呼ぶ) サルモレホはなぁ〜、パンに塗っても美味しいよ。野菜サラダにもよく合うよ。肉にも魚にも良い…」

 以来僕は、太陽がカンカン照りになる季節になると、必ずサルモレホを注文する。

 冬の季節には無い料理なのだ。

ビールにも合うサルモレホは
真夏のセビージャに欠かせない

 毎日食す様になったキッカケはもう1つ。ある夏の暑い日にスペイン人とゴルフを楽しんだ時の事だ。

 9ホールを終えたところで彼は言った。そしてクラブハウスのバルに一目散に駆け込んだ。

 「タカオ!!もぅ暑くてかなわねぇ〜。パスしてちょっと休憩しよう」

 僕は冷たいビールを注文した。

 彼は「Salmorejo grande サルモレホのデカイの!!」

 大鉢にたっぷり入ったサルモレホが来た。

 彼はパンを千切って放り込み「美味い!!」と言いながら無言のうちに平らげた。

 「タカオ!!ビールはダメだ。後で疲れがくる。夏はサルモレホだぜ!!彼にもサルモレホを頼むよ!!」

 その時が初めての味だったが、爽やかな舌ざわりが残った。そして、後半の9ホールは暑さ負けもせず、猛暑のゴルフを乗り切る事ができたのだ。

 こうして僕は、真夏になると、このサルモレホを毎日食べるようになった。食欲がない日でも、サルモレホを食べると食欲が湧いてくるから不思議だ。そしてソース状の料理なのにビールにも良く合う。

サルモレホの作り方を公開しよう

 7月の猛烈に暑い日。

 この日は、インテルカンビオで、僕ら夫婦の、スペイン語の先生アナのくる日である。アナが大きな鍋を抱えてきた。

 「タカオ!私の自慢料理、サルモレホよ!!食べて頂戴ね…」

 セビージャの女性は母親から伝統的なサルモレホの作り方を習うそうだ。従って家庭によってサルモレホの味が違う。

 冷蔵庫に冷やしておいたアナのサルモレホはトマトとニンニクの香りがホンのり。クドさが全く無く、サラサラしていて2回もお替りをした程爽やかな味だった。

 「トシ!レシピを書いてきたから作ってみたら…」

 最後に、アナ・テレサ・ロペス流の家庭料理風サルモレホの作り方を書いておこう。

 赤く熟したトマト 500グラムを細かく刻む。
 ニンニク(大)1片を刻む。
 塩を少々。
 酢を少々。
 エキストラ・バージン・オイルを1カップ。
 15分位水につけた半分のフランスパンを絞る。

 以上の全てをハンドミキサーにかけ、サーモンピンク色のソース状になったら出来上がり。

 冷蔵庫に冷やして、ゆで卵のみじん切り、ハモンセラーノのみじん切り、バカラオ(タラ)のみじん切りを、好みに応じて散らし、その上から上質のオリーブ油をかけて食べる。

 「簡単な料理なのね。これなら東京に帰ってからも出来るわ。試してみよう!!」と、女房はご機嫌だったが、僕は口にこそ出さなかったが、日本の果物のような甘い味のトマトでは、酸味の利いた野性的な味は出せないのではないか…?と思った。

 そして、サルモレホは、カラカラに乾いたセビージャの風土には合うが、ジメジメした湿気の多い東京の夏には不向きなのではないか…?とも思った。

 でも「そうだね。作ってごらんよ。レパートリーが増えて良かったね」と、女房に呟いた。