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我が家には大勢のフラメンコ留学生がご飯を食べにやって来るよ。しかも将来、プロの踊り手になりたい、という人たちばかりだ。若いひと達のフラメンコに賭ける情熱は物凄い。話を聞いているだけで楽しいよ。
僕も女房もお酒が好きだから、大歓迎だ。女房はフラメンコが大好きで、もう20年も東京とセビージャを行ったり来たり。東京ではフラメンコの本格派、舞踊家の田中美穂先生に師事し、お荷物ながらも61才という年齢と闘いながら「フラメンコが好きだから」という理由だけで踊り続けているんだよ。セビージャでは午前がマノロ・マリーンのアカデミアへ、午後はコンチャ・バルガスの教室へ通っているよ。「いい年をして、よくやるよ」と内心では賑々しく思っているんだが、好きなことをやらせておけば煩くなくていいからね。
我が家の人気メニューはお新香と味噌汁だよ。彼女たちは日本食に飢えているから、僕の作った「ぬかずけ」のお新香は「美味しい」と言って大評判なんだ。スペインの新鮮なきゅうり、かぶ、セロリ、にんじん、なすなどを東京から持ってきた「ぬか床」に漬けて冷蔵庫に入れておくんだよ。味噌汁は利尻の昆布と鰹節で出汁をとり、金沢から取り寄せた加賀味噌で味を調える。具は煮すぎない程度の、カラバシン「ズッキーニ」が抜群に美味いよ。
スペイン人に追いつき、追い越せ
さてフラメンコの本場セビージヤには、現在、日本人留学生が80人から100人はいる。皆んな一生懸命頑張っているよ。昨年、友人のNHKの小泉世里子ディレクターがBSニュースの取材でセビリアのフラメンコ事情を調査したんだが、その時は50人以上と報告していた。が、今は確実に100人以上だね。
先日もテアトロ・セントラルにマノレーテのシクロ・フラメンコ・ビィエネ・デル・スールを見にいったが、あまりにも日本人が多いので開演前に数えてみたが、80人までは数えることが出来たよ。ヘレスやグラナダ、マドリッドなどにも留学生がいるから100人以上は間違いないな。
その他の外国人はアメリカ、ドイツ、フランス、といったところだが日本人が圧倒的。だから教えるスペイン人側も日本人がいなくなったら経営できなくなってしまうので日本人には親切に丁寧に教えてくれるよ。勿論、日本人がフラメンコを好きなことを知っているし、フラメンコ・ビジネスでも日本市場が大切なことも認識しているよ。
プロ志願の留学生は本場のスペイン人に追いつき、追い越せがモツトーだが生半可な勉強ではとてもじやないが、スペイン人に追いつくことが出来ない。持って生まれた肉体とリズム感、フラメンコの産湯につかって生まれた環境など、どうしようもないんだ。
でも"本場"に勝てる唯一の方法がある。それは日本人が持っている美徳、根性と努力なんだよ。はっきり言うと、勝負するには"自習"しかないんだよ。朝も夜もプロ志願者の留学生はスペイン人の先生に師事し汗を流す。この練習だけでも相当のエネルギーが必要だが、空いている午後の時間にどれだけ"自習"の時間を作るかが勝負の分かれ目だね。
先生に習ったことを直ぐに"自習"で自分の身体に覚えさせる努力、根性がないとすぐに挫折してしまう。高い授業料を払った上に貸しスタジオの料金まで。そして肉体の限界まで"踊りこなす"厳しさ。本当に修行は辛いよね。
フラメンコ一色の生活ぶり
福原恵理さんと斎藤恵子さんは、この根性と努力によって栄光の座を勝ち獲ったんだ。僕も女房も嬉しくてしようがないよ。
恵利さんはセビージヤでの修行は3年目になるが、まさに身も心もセビージヤに捧げた感がある。ギター演奏者のスペイン人パコさんと恋愛し結ばれ、まさにフラメンコ一色の生活ぶり。日本では先生を持たず、一匹狼的な存在。もともと子供の時からバレエを習い、方向転換してフラメンコの世界に入った女性だが巨匠マノロ・マリーンに師事し、頭角をあらわしたんだ。
その才能は本場のセビージヤで華が開いた。そこには彼女なりの考えがあるのだろう、パコさんの経営するフラメンコ教室で、しかも彼のギターで思う存分"自習"ができるし、彼との生活のなかからフラメンコの香りを充分に会得することが出来るわけだね。まさにフラメンコ漬けの日々だ。
この身も心も努力したおかげで、このたび、マノロ・マリーンが結成した、マノロ・マリーン舞踊団に日本人としてただ一人、抜擢されたんだ。日本公演もやがて実現するだろうね。
嬉しいニュースはまだ続く。アンダルシアでカナル・スールテレビが毎日曜日のゴールデン・タイムに放送する大型音楽番組「コン・テイゴ」に日本人では初の出演が決まったんだよ。
「コン・テイゴ」は一流のアルティスタしか出演できない権威ある音楽番組なんだが、恵理さんは10分間にわたり、ブレリアを披露したよ。司会者の人気歌手、マリア・デル・モンテに「素晴らしい」と誉められて、彼女はテレていたよ。
留学生たちはスクスク育っているよ
斎藤恵子さんは23才、8才の時から佐藤祐子先生の教室に通い始め、まさに手取り足取りでフラメンコを習い、子供の時からフラメンコの世界で遊んだ女性だが、宿命的に、将来はフラメンコ・ダンサーとしてプロの道を歩まざるをえない環境に育ったんだ。
大学も日本女子体育短期大学の舞踊専攻に学んだので基礎はばっちり出来ているし、容姿もスペイン人なみに目が大きくパッチリ、身体のバランスも抜群だ。午前はマノロ・マリーンのアカデミアでピリに教えを受け、夕はコンチャ・バルガスのもとで修行、特にコンチャ・バルガスの野性的なプーロ・フラメンコに心酔している。
まだ1年にも満たない修行だが、真面目を絵に描いたような女の子でアパートとレッスン場以外はセビージャのことをなにも知らないという女性なんだ。観光したり、買い物したり、海に行ったりする時間は全て"自習"に費やすという踊り一色の毎日。根性と努力は見上げたもんだよ。
それでも持ち前の笑顔を絶やさず、留学生仲間からも慕われている。コンチャ・バルガスは名伯楽としても名高く、才能のあるお弟子さんを育てる能力は抜群でしかも面倒味がいい。努力している恵子さんを見逃すはずが無い。コンチャのお眼がねに適い、この7月から本場のセビージャでプロ・デビューすることになったんだよ。しかも1ヶ月、ぶっ続けのステージ。毎日2ステージでギャラも5000エウローという条件でカルボネリアのステージに立つことになったんだよ。
我が家に集まってくれる留学生たちはスクスク育っているよ。なかにはレッスンについていけず、挫折してしまう女性もいるが、我が家の味噌汁とお新香で鋭気を養って、またやる気を出して頑張る女性たちは本当に頼もしく思うよ。このお二人の生き様は僕等夫婦にも元気を与えてくれるんだ。
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