文と写真/周藤まゆみ

 Vol.19
60年ぶりの猛暑!木陰と水を求めて、カソーラ5日間の旅(後編)


夜中、不思議な物音で目が覚めた。私たちのテントの周りをヒタヒタと歩き回る不気味な足音、いったい誰が、何が歩き回っているのだ?

その足音はテントのすぐそばでしたかと思うと遠のき、いなくなったかと思うと突然現れるという具合で、30分も続いた。私たちは意を決して、キャンプ野郎は斧を手に、私はそこらにあったパイプを手に不意打ちをかけようと立ち上がった瞬間、
「ガガガッ、オイーン!」
という低いうめき声とともに、テントに体当たりした物体が。私はすっかり動転して、テントのパイプにしがみついていたが、キャンプ野郎は斧と懐中電灯を手に、飛び出して行った。

が、いったいどーしたのだ?物音ひとつしない。彼は無事なのか?謎の生き物の正体は?残された私はどーなるのか…。

15分もすると、キャンプ野郎が帰ってきた。テントの端にくくりつけてあったゴミ袋を捨てに行って来たと言う。

「もう大丈夫だよ、ほら、あそこ見てごらん」
おそるおそるテントからはい出すとそこにはなんと、1mもあろうかという野生のイノシシが。

「明日からはちゃんとゴミを捨てよう」
夜中にひとり反省をするキャンプ野郎、それを木陰からじっと見つめるイノシシ。きっとおなかが空いているんだなぁ。ちょっとしんみりして眠りにつく。がこの時まさか、このイノシシ(やがて一家になる)の来訪が、このキャンプ場の定例行事であるとはもちろん知るよしもなかった。

イノシシの来訪、そして3タイプの虫さされ

翌朝、目が覚めてびっくり、体中が虫さされでボツボツなのだ。ひぇ〜っ、それもよく見ると虫さされに3タイプぐらいある。

「虫さされの標本サンプルみたいだね」
と相変わらずのんきなキャンプ野郎、何をするかと思えば、にんにくを薄切りにして私の体中、虫さされの上にペタペタと張っていく。“自然にこそ、すべての治療法が眠っている!”を信じる彼の方針で、私などもう4年も軟膏、胃薬、風邪薬はもちろん、抗生物質など近づかせてもらえないのだ。

海水、深呼吸、太陽、木の側、植物と野菜、そして裸、素足で生活すること、これこそ健康と幸せの基本!と言い切り、実際そうやって毎日生きているキャンプ野郎って、すごいなあ。だいたい、脇の下にシューシューってやる芳香剤が、アロエのネバネバ汁だもんなぁ。

天然プールで泳ぐ、最高のシアワセ

さて、今日のプランは“アグアムラス川の天然プールで泳ぐ!”である。1992mのバンデリージャス山から流れ出る湧き水で、ミネラルウォーターにもなるこの川のどこかに、天然プールがひそんでいるのだ。

さっそく一枚の地図を頼りに林道を進む。何という静寂、その一部であるかのようなセミの絶唱。観光ルートでないせいか、ひとっこひとりいない。ノロノロと30分も行くと突然視界が開け、おおーっ、アグアムラス川だ。そして、夢にまで見た緑の天然プール!!

草をはむ牛の横で泳ぐ。魚たちの一群に身を投げる。水は切れるように冷たく3分もつかっていると痛くなってくるが、毎日買っているミネラルウォーターの中で泳いでるかと思うと、はぁ、何てぜいたくなんだろう!見渡す限りの緑、視界の中に誰もいない、どんな物音もしないって、
「ケ・ルホ!(なんてぜいたくなんだ!)」

氷のような水と36℃の猛暑のあいだを一日中行ったり来たり。キャンプ場に戻るとさっそくプールへ。その後は温かいシャワーでシメ。って何だか健康ランドみたいだな。そうか、夏のキャンプって、血管が開いて閉まって体にいいんだなぁ、足の指なんか開きっぱなしだ。ホテルに行かなくて、いや行けなくて本当によかった。

“山峡の秘湯”は天然プールの宝庫

2日目のプランは“エリアス川の天然プールで泳ぐ!”って、川の名が変わっただけだが。何しろ、この旅のメインは“緑色の天然プール”、そして“そこに身を置くことこそ極楽”、とゆーのがこの旅のコンセプトなのだ。

さっそくリュックに水と食料をつめこみ、“セラーダ・デ・エリアス”(エリアス峡谷)をめざす。片道約10kmあるが、さすがカソーラ自然公園の目玉ハイキングコースの一つとあって、けっこうな賑わいだ。40分も行くと右手に滝が現れた。チャルコ・デ・クーニャだ。端のたもとにそれは見事な天然プールが青々と広がっていたが、我々はもっと山峡の“秘湯”をめざす。
 
いくつか橋を渡り、やがて道幅が1mくらいの峡谷歩きになってきた。セラーダ・デ・エリアスに入ったのだ。天然プールを探すつもりでここまで来たのに、見ればどこもが天然プール、
「どこでもいいんじゃない?ねぇ」
“山峡の秘湯”発見!に並々ならぬ期待を抱いていた私を落胆させぬよう、気を遣うキャンプ野郎であった。

このエリアス川も昨日のアグアムラス川も、この辺り一帯のほとんど全ての川は、かのグアルダルキビル川に流れ出る。アンダルシアで一番有名なこの川は、このカソーラで生まれ、ハエン県、コルドバ県を貫き、セビージャを通って大西洋に注ぎ込む。なんと雄大な旅だろうか。

そして、次の国境越え計画

3日目は“センデロ・デ・セラーダ・デ・ウテロ”(ウテロ峡歩き)へ出かける。約一時間のハイキングコースだが、登り下りが激しく健脚者向き。もちろん滝、天然プール付きだ。帰り道、この川の下流を通りかかり、何気なくのぞいた橋のたもとになんと、ひっそり緑色の水面をたたえた天然プールが!木陰に守られたたずむ風情は、まさしく“秘湯”である。

4日目は、野生の鹿が住むというトロンコ・デ・ベアス湖畔をドライブ。馬で林道を散歩するツアーがあると知り、プールにのんびりつかりたいキャンプ野郎を必死に説得してかけつけた時は時遅し。がっくり肩を落とす私に
「次の旅行では絶対、馬に乗ろう!約束する。だいたい馬に乗ってたら、落ちて足でも折ってたんだよ。人生、何が不幸か分からないものだ」って“寒扇が馬”じゃないんだから。

結局、彼のボロボロルノーは全行程900kmを走破、予算の170ユーロで、カソーラ名物“リンラン”や“カソーラ風ピスト”も食べられたし、天然プールで極楽三昧、はぁ、5日間、本当に楽しかったなあ。

その後、オンシーズンの私たちは8月15日まで連日演奏。その合間をぬって、“音楽屋キャラバンは行く!〜国境なき音楽屋、地中海街道まっしぐら〜”の旅の準備を進めている。バルセロナを越えて南フランスまで行く予定だが、果たしてどうなることやら。

「カマルグ湿原(南仏)の白い馬に乗るんだ!」
と意気込む私にキャンプ野郎、
「湿原は蚊が多いよ。6年ものの、いいアロエを持って行こう」
って、ワインじゃないぞ、にんにくの次はアロエか?

まあ、ネバネバ汁の方が、全身にんにく臭いってよりはいいが。

BESOS(ベソス)



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Mayumi Shuto
 ヨーロッパを遊学中、偶然見たタンゴの舞台に感激。会社を辞め"音楽屋"になることを決意。現在スペインのマラガで、ハンガリー系・ウルグアイ人のバイオリニスト、べラ・トラカル氏とデュオ活動中。歌手・ダンサーを加え1998年に結成したタンゴグループ「コンセルタンゴ」の編曲・ディレクションを務めるかたわら、始めたピアノ教室♪も好調。いつかニッポンで演奏することを夢見つつ"思い入れたっぷりのピアノ道"をめざす。 デュオの紹介はこちら