見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.72
イギリス人、フランス人、スペイン人

A :

スペイン人っていうと、情熱的で明るいというイメージが一般的にあるよね。

B : 暗いスペイン人もいるけどな。
A : そりゃまあ、そうだろうけど。
B : 陰気な性格で社交が苦手で、知らない人とはひとことも口きけない人。
A :

確かにいるとは思うよ。

B : スペイン人がみんな情熱的で明るいと思ったら大間違いなんだよ。フラメンコ踊れないスペイン人だっているんだよ。女の子に声かけられないイタリア人だっているんだよ!
A : わかってるよ!
B : リズム感のない黒人もいるんだよ!切腹しない日本人だっているんだよ!
A :

もう、わけわかんないよ!あくまでも一般論としての話だ!スペイン人の国民性を考えるときに便利な本があってね。サルバドール・デ・マダリアーガの『情熱の構造』(れんが書房新社)。原著が出版されたのは1928年で、もともとのタイトルは「イギリス人、フランス人、スペイン人」。

B :

マダリアーガって、どこの馬の骨だ?

A :

聞いたことないからって馬の骨ってことはないだろ!マダリアーガは文筆家で、国際連盟のスペイン代表を務め、オックスフォード大学では教授、さらに駐米・駐仏大使も歴任した知識人だよ。

B : 経歴が凄すぎて、友達にはしたくないタイプだな。
A :

とっくの昔に亡くなってるよ!この本でマダリアーガはそれぞれの国民性をわかりやすいキーワードで分析してるんだけど、まずイギリス人は「フェアプレー」、フランス人は「法」、で、スペイン人は「名誉」。フェアプレーはもちろんスポーツ用語だけど、要するに「行動」を何よりも重視するってこと。そこからイギリスの経験論が生まれたわけだ。

B : 確かに行動を重視してるよな、イギリスのフーリガンは。
A : フェアプレーでも何でもないだろ!フランス人の「法」は、つまり観念だね。行動の前に規則をつくる。規則にのっとって行動するわけだ。
B :

フランス人は知性とか理性で行動を律するんだな。要するに頭を使うってことか。

A :

そういうことだね。

B : ジダンも頭を使ったしな。
A :

頭突きだろ、あれは!しかも話題が中途半端に古いよ!で、スペイン人にとっての「名誉」、これはフェアプレーとか法を超越したところにあるとマダリアーガは説いている。きわめて内面的なもの、つまり名誉とは「情熱」だと。

B : スペインは情熱的って、今さら言われなくてもみんな思ってることだろ。
A : そうなんだけど、情熱(パシオン)のもともとの意味はイエス・キリストの受難(パシオン)なんだよね。だから情熱的=明るい、ってわけでもないんだ。で、マダリアーガは三つの国民が人生に対してとる特徴的な態度を、イギリス人は「行動」、フランス人は「思考」、スペイン人は「情熱」だと分類してるんだ。
B : かなり極端だけど、まあ、確かにそんな感じがするよな。
A : このマダリアーガの考え方は、よくこんなふうに紹介されるんだ。「イギリス人は歩きながら考える。フランス人は考えた後で走り出す。そしてスペイン人は、走ってしまった後で考える」。
B : 走ってしまった後で考えるって、なんか馬鹿にされてるみたいだな。
A : そんな意味はないと思うよ。情熱に突き動かされて行動するってことだろ。
B : スペイン人は朝ご飯を食べてしまった後で考えるんだろうな。
A : 何を?
B : 「あの…朝ご飯…まだいただいてませんけど?」って。
A : ボケちゃってるよ!