見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.59
ジプシー、ふたたび

A : 前にロムの話をしたけど、あれからいろいろ調べてみたら、ジプシーをどう呼ぶべきか、これは結構難しい問題だということがわかったんだ。
B : 「ジプシーは自分たちのことをロムと呼んでいる」って話だったよな。
A :

そう。ロムとかロマとかね。ロムはジプシーの言語であるロマニー語で「男」「人間」「夫」を表す言葉で、ロマはその複数形。だけど、最近の研究によれば、自分たちのことをロムとかロマと呼んでいるジプシーは実は少ないことがわかった。

B : ベムって呼んでる人が多いらしいね。
A : 妖怪人間じゃねえよ!「ジプシーは差別語だからこれからはロマと呼ぶことにしましょう」っていう話が出て来たのは1971年の第一回世界ロマ会議なんだ。その背景には、ルーマニアで長く奴隷制のもとにおかれてきた集団の一部(ヴラフ系ロマ)のあいだで自分たちのことをロマと呼ぶようになったことがある。でも、その他の集団では、ロマといえば単に「男」とか「人間」とか「夫」という意味しかないんだ。
B : つまりヴラフ系の人たちだけの専売特許ということか。
A :

まあ、言ってみればそうだね。その証拠に、ヴラフ系ロマは、自分たちこそが「真のロマ」だと考えていて、他の集団のことはロマとは呼ばないんだ。

B : ややこしいな。
A : そうなんだよ。たとえばドイツのジプシーは自分たちをシンティと呼んでるし、フランスはマヌーシュ、イギリスはロマニチャル、フィンランドはカーロ、スペインではヒターノあるいはカレー(cale)と、バラバラなんだ。
B : 本当の姉妹じゃないのに「叶姉妹」と名乗っているあの二人みたいなもんだな。
A :

全然ちがうよ!こんなところでいきなり芸能界のタブーに挑戦してどうするんだよ!

B :

しかしスペインのジプシーが自分たちを「カレー」と呼んでるくらいだから、やっぱりジプシーはインドから来たんだろうね。

A :

そういういい加減なこと言うから誤解が誤解を呼ぶんだよ!たしかにインド起源説はあるけど、確かな証拠はないんだ。はっきりわかってるのは、ジプシーと呼ばれる人たちが11世紀にバルカン半島に住んでいて、そこから方々に散ったことだけ。彼らがどこから来たのかは不明なんだよ。

B : じゃあ、これからジプシーは何て呼べばいいんだよ。
A :

それが問題だよね。なにしろジプシーたちの言葉には世界中のジプシーをまとめて呼ぶ総称が存在しない。だから、結局は「ジプシー」と呼ぶ以外になさそうなんだ。この辺の事情については水谷驍さんの『ジプシー 歴史・社会・文化』(平凡社新書)が詳しいよ。

B : 爆笑問題を漫才師と呼んでいいのかどうかと似てる問題だな。
A : どこがだよ!
B :

小林信彦さんが対談したとき、「お二人がやっているのは、漫才なんですか?」って質問したんだ。そしたら太田光は「僕は漫才とは思ってないです。漫才の基本も知らないし、それこそやす・きよもあんまり見ていないし、ダイマル・ラケットも知らないし、自分たちが何なのかハッキリ言えないんです」って答えてるんだよ。『爆笑問題とウルトラ7』(新潮文庫)に載ってるんだけど。

A :

別にいいだろ、コメディアンと思ってるのかも知れないし。

B : 小林さんは「なんか不思議な芝居みたいなものかなあ」って言ってて。ところが去年出たDVD『爆笑問題のツーショット 2007年上半期』のパッケージの裏を見て驚いたね。「俺たちは一生漫才師でありたい。太田」って書いてるんだよ。どっちなんだよ!
A :

いいだろ、どっちでも!

B : 由々しき問題だ!
A : 本当にどうでもいい話題だよ!
B : 私が総理大臣になったら二人は逮捕します。
A : お前がいちばん影響受けてるじゃねえか!
B : 往復だと安いもんな。
A : 格安航空券じゃねえよ!