見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.49
フェルナンド・フェルナン=ゴメス

A : 11月21日、スペインを代表する俳優のフェルナンド・フェルナン=ゴメスが亡くなったね。86歳だった。
B : 最近だとホセ・ルイス・クエルダ監督の映画『蝶の舌』で演じた小学校の先生役が印象的でね。
A :

ラストシーンは衝撃的だったね。

B : 主人公モンチョが先生に石を投げながら叫ぶシーンな。「でもそんなの関係ねぇ!」って。
A : 小島よしおのギャグだろ、それは!
B : 流行語大賞とったから、記念にと思って。
A : いいんだよ、そんな記念は。その前にもアルモドバルの『オール・アバウト・マイ・マザー』でペネロペ・クルスのお父さん役をやったね。ボケ老人だった。
B : 公園で犬を連れて散歩するシーンだな。ロケ地はバルセロナのメディナセリ広場。俺たちの作者がおととしこの広場に行ったら、やっぱり犬を連れて歩いてたんだって。
A : ウソつけ!作者が行ったのは本当だけど。
B : 俳優として有名だけど、優れた映画監督でもあって、劇作家としても有名で。
A : いわゆるマルチタレントだね。
B :

それだけじゃなくて、小説家にエッセイスト、詩人、舞台演出家、シナリオ作家、王立言語アカデミー会員、闘牛士、ボクサー、八百屋、竿竹売り、銀行強盗…。

A : 王立言語アカデミー会員までは本当だけど、闘牛士以下はぜんぶデタラメだ!
B : でも日本では俳優としてしか知られてないな。
A : 古いところだとビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』のお父さんとかね。でも実は劇作家としての仕事も紹介されてるんだ。スペイン内戦を舞台にした代表作『自転車は夏のために』。スペインではガビーノ・ディエゴ主演で映画化されたんだけど、1993年7月に劇団青年座が上演した。俺たちの作者が翻訳したんだ。
B : たしか『三輪車は春のために』の続編だってね。
A : そんな作品はねえよ!マドリードの中流家庭の話で、主人公の少年は自転車が欲しい。友だちがみんな持ってるから。お父さんは「試験に合格したら夏休みに買ってやる」って約束するんだけど、その夏に内戦が勃発するんだ。自転車は手に入らない。お父さんと少年は瓦礫の上に立って、「来年の夏は自転車が買えるかなあ」って。切ないドラマなんだ。
B :

中国製ならいくらでも安いのあるのに…。

A : それは今の日本の話だろ!
B : しかし、『蝶の舌』も『ミツバチのささやき』も内戦の話だろ。フェルナンド・フェルナン=ゴメスは内戦がトラウマになっているのかもな。
A : やっぱり、なんだかんだいって、現代スペインの悲劇だからね。でもフェルナン=ゴメスのいいところは、映画にしろ芝居にしろ、暗くなりがちな話を極上のユーモアで包むところなんだ。
B : 結局、人間を救うのはユーモアなんだよ。
A : 急にマジメな話だな。
B : ユーモアのないやつは生きる価値なし。死刑。
A : 救いようがないのはお前だ!