見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.44
魔女

A : さて、今回のテーマは魔女です。
B : 魔女か。いろいろあるよな。「魔女っ子メグちゃん」もいいし「魔法使いサリー」も捨てがたいけど、俺はやっぱり「魔女の宅急便」のキキ派だな。
A : 魔女ったってアニメの話じゃないんだよ。
B : 実写ですか?だったら「奥さまは魔女」のサマンサ派です。
A :

だからフィクションの話じゃないんだってば!現実にいた魔女だよ。中世のヨーロッパには魔女が実際にいたんだけど、スペインも例外ではなくて、特に有名だったのがバスクとナバーラ。ナバーラのスガラムンディっていう町には魔女の夜会が開かれたことで有名な洞窟があるんだ。

B : だいたい魔女って何してたの?
A : 簡単にいうと悪魔崇拝だね。魔女っていうと女だけみたいだけど、男もいたんだ。悪魔はオスの山羊の姿で現れると信じられていた。バスク語でオスの山羊は「アケーラ」っていうんだけど、この悪魔、アケーラを信じる人たちが集まった場所を「アケラーレ」 aquelarre って呼んだんだ。集会は決まって深夜でね。悪魔を信じてるくらいだから、かなり悪いというか、きわどいことをやってたらしい。
B : 夜中にピンポンダッシュとか?
A : するわけねえだろ、洞窟の中なんだから!オス山羊の恰好をした人には悪魔が乗り移って中央に陣取り、参加者は男女入り乱れてくんずほぐれつ、卑猥なことをしたみたいだよ。
B : 要するに乱交パーティーか。
A : まあ、ぶっちゃけた話、そういうことだね。人間だけじゃなくて、動物にも残酷な仕打ちをしたりして、残酷であればあるほど褒め称えられ、ぐずぐずしている人は罰を受けた。
B : ジャイアンがのび太をいじめるようなもんだな。
A : 全然違うと思うぞ!悪魔は神のアンチテーゼだから、儀式はキリスト教の習慣を逆手にとって行われた。アケラーレが開催されたのは金曜日の夜が多かったんだ。イエス・キリストが十字架にかけられたのが金曜日だったからね。
B :

“花金”って呼ばれてたらしいね。

A : 呼ばれてねえよ!ていうか、もうとっくに死語だろ、それ!あと、セマナ・サンタの聖木曜日にも開かれた。最後の晩餐にちなんだわけだ。
B : その代わり月曜はハッピーマンデーだったんだよな。
A : 当時はそんなものねえよ!他に魔女がしたことといえば、人間を豚や羊に変身させたり、嵐を呼んで海を荒れさせたり、農作物に呪いをかけて凶作にしたり。もちろん人間にも呪いをかけた。
B : 楽しそうだなあ。よし、俺も修行するぞ!
A : するなよ!
B :

でも、いくらこっそりとはいえ、キリスト教と正反対の怪しい儀式とかやったら、カトリック教会は黙っちゃいないだろ?

A : そう。いわゆる“魔女狩り”だね。魔女を火あぶりにしたとかいう話、聞いたことあるよね。
B : いいねえ、火あぶり。
A : なに喜んでるんだよ!スペインには異端審問があって、1610年にログローニョで大きな魔女裁判があったんだけど、火あぶりになったのはたった六人。実際、魔女裁判のほとんどは民事裁判だったんだって。
B : でも、一度でいいから参加してみたいよな、魔女の夜会。
A : パーティーじゃねえんだよ!絵なら残ってるけど。ゴヤが「魔女の飛翔」とか、その名もずばり「アケラーレ」っていう絵を描いてる。
B : よし決めた。俺はなるぞ、ハクション大魔王。
A : ちっとも怖くないよ!