見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.41
フランシスコ・ウンブラル

A : 前回はモビーダの話だったけど、ただ若者が騒いだだけじゃなくて、文学者や知識人にもモビーダを評価する人がいたんだ。
B : 知識人っていうと同時代を批判するのが役目みたいなところがあるけど、そうじゃない人もたまにいるよな。
A : そうだね。日本でもちょうどバブルの頃、詩人で思想家の吉本隆明が、糸井重里のコピーや高橋源一郎のポストモダン小説を評価したよね。
B : ああ、「東京ばな奈」の発明者な。
A :

「東京ばな奈」はお菓子だし、吉本隆明の娘は吉本ばななだ!突っ込むところが多すぎるよ!で、モビーダを評価した人の中でも際立っていたのが作家のフランシスコ・ウンブラル。

B : 聞いたことないな。
A : 日本では全く紹介されていないから無理もないよ。日刊紙「エル・パイス」や「ディアリオ16」のコラムニストとして有名でね。同時代の若者文化を評論家の立場から擁護したんだ。と、ちょうどこれを書いている途中(8月28日)で、なんと訃報が飛び込んできました。享年72だって。
B : お、いいねいいね。リアルタイムでお伝えする微笑問題!
A : はしゃぐなよ、不謹慎だろ!話を戻すけど、ウンブラルは見た目が竹村健一に似てるんだ。
B : 今の人は知らないだろ。
A : かもね。で、ボストンタイプの眼鏡に白いマフラーがトレードマーク。
B : 変な恰好だな。「お前はエルビス・コステロとヨン様のいいとこ取りか!」って突っ込みたいよ。
A : いいんだよ突っ込まなくて!小説にエッセイ、コラムと幅広く活躍したんだけど、翻訳はないから端折ることにして、今回紹介したいのはウンブラルが一人で執筆した辞典。
B :

辞典?辞典なんて退屈だろ?

A : ところがそうでもないんだ。『チェリ辞典』っていってね。
B : チェリ?
A : うん。これはマドリードの若者たち、特にマージナルな貧困層やアンダーグラウンド文化の担い手のあいだだけで通じる隠語のこと。八十年代前半、まさにモビーダの時代に流行したんだ。たとえば、スペイン語で「虎」はティグレ tigre っていうよね。でも、チェリでティグレといえば「トイレ」のことなんだ。
B : 虎とトイレじゃ何の関係もないな。
A : 隠語だからね。「わかる人にだけわかる」のがいいんだよ。あとは、「黙れ」「口を閉じろ」っていう意味のアチャンタ・ラ・ムイ Achanta la mui なんていうのもある。ラ・ムイは「口」のことなんだ。
B :

わかりやすくいえば、「うれピー」とか「いただきマンモス」とかの、のりピー語だね。

A : かえってわかりにくいよ!それはアイドルの酒井法子が勝手に広めただけだろ。
B : ウンブラルはマドリードの文化に詳しかったんだな。
A : 生粋のマドリードっ子だったからね。スペイン最高の文学賞であるセルバンテス賞も受賞してるし、王立言語アカデミーに推薦されたこともあるくらいだから、彼の名前を知らないスペイン人はいないよ。
B : ウンブラル氏のご冥福をお祈りしマンモス。
A : うるさいよ!