見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.39
映画の都マドリード

A : ウディ・アレン監督が新作をスペインで撮影してるね。
B : ニューヨーク派のアレンにしては珍しいな。
A : 9.11の影響らしいよ。アメリカでは撮影しにくくなったんだって。『マッチポイント』はロンドンで撮影したし。スペインではウディ・アレンが大人気だよね。アレンもスペインが大好きで、アストゥリア皇太子賞を受賞している。
B : 主演はペネロペ・クルスとザビエルだっけ?
A :

ハビエル・バルデムだよ!あとスカーレット・ヨハンソンもね。バルセロナの撮影が終わって今はオビエドで撮ってる。ところで昔の話なんだけど、マドリードがハリウッドに次ぐ映画の都だったことがあるんだよ。

B : 初耳だな。
A : 1950年代の終わりから60年代の初めにかけてなんだけど。ハリウッドの黄金時代は30年代と40年代で、50年代には人件費が高騰したんだ。それで別天地を求めた。最初はメキシコ。でもメキシコは天候が不安定で、次に選ばれたのがスペイン。
B : スペインは人件費が安かったのか。
A : そういうこと。サミュエル・プロンストンというプロデューサーがマドリードの郊外にハリウッドそっくりの撮影所を作った。エキストラもスペイン人を使ってね。
B : 当時はペネロペ・クルスも安月給だったんだろうな。
A : まだ生まれてねえよ!
B : 革靴の紐をスパゲッティーみたいにして食べてたって言うからね。
A : それはチャップリンの『黄金狂時代』だろ!スペインはイギリスやフランスが近いから国際的なキャストを組むにも便利だろ?風景もハリウッドに似てるんだ。そこでハリウッドの監督たちがマドリードで超大作を次々と撮影した。代表作はニコラス・レイ監督の『北京の55日』。
B :

ああ、55日間ぶっ続けて北京ダック食べる、アレね。

A : どんな映画だよ!勝手にストーリー作るな!舞台は北京なんだけど、何とマドリード郊外に北京のセットを作っちゃった。
B : 北京ダック以外に誰が出てたっけ?
A : いい加減北京ダックから離れろ!主演はチャールトン・ヘストンにエヴァ・ガードナー。イギリスのデヴィッド・ニーヴンも参加したし、日本からは伊丹十三が出演してるんだよね。
B : 伊丹十三って、今の若い人たちにはピンと来ないかも知れないな。
A : 80年代は『お葬式』とか『マルサの女』とかの監督として大人気だったけど、元々は俳優でね。十年前に自殺しちゃったね。
B :

たしかお父さんも映画監督だったよな。

A : 伊丹万作だね。
B : 義理の弟が大江健三郎で。
A : そうそう。
B :

義理の兄がオクタビオ・パスで従弟がカミロ・ホセ・セラだっけ?

A : ノーベル文学賞一家かよ!