見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.32
豚とユダヤ人

A : 最近はスペインの生ハムが日本でもずいぶん手軽に食べられるようになったね。中でも人気なのがイベリコ豚という黒豚でつくったハモン・イベリコ。
B : うまいよな。舌に乗せると脂身がとろりと溶けて。
A : そうそう。極上のトロみたいだよね。ところが残念なことにこれを食べられない人たちがいる。。
B : 石塚英彦?
A :

なんでだよ?

B : 共食いになるんじゃないかと思って。
A : ただのデブってことかよ!石ちゃんはどっちかって言えば牛のイメージだろ!そうじゃなくてユダヤ人だよ。ユダヤ人、特にスペインのユダヤ人は豚との因縁があるんだ。
B : どういうことだよ?
A : スペインはカトリックの国で昔からユダヤ人は迫害されていた。1492年には国外追放令が出たんだけど、ユダヤ人の中にはカトリックに改宗したと見せかけて国内にとどまりながらこっそりユダヤ教を信仰し続けた人が大勢いたんだ。言わば隠れユダヤ教徒≠セね。そんな彼らのことを生粋のカトリック教徒たちは「マラーノ」と呼んだ。
B : 何だよマラーノって?
A : 「汚らわしい」「不潔な」っていう意味と「豚」という意味があって、その両方の意味を含めた蔑称だね。
B : 「豚野郎」みたいなニュアンスかな?
A : その通り。しかも厄介なのは、ユダヤ人は豚肉を食べないんだよね。
B :

お言葉を返すようですが、我々イスラム教徒だって豚肉は食べませんよ?

A : お前いつからイスラム教徒になったんだよ!ユダヤ教には食べていいものといけないものを定めたカーシェールという規定がある。動物で食べていいのは「反芻するもの」でかつ「蹄(ひづめ)が割れているもの」。牛とか羊とか鹿だね。
B : 豚も蹄が割れてるぞ。
A : でも反芻はしないだろ?条件を二つとも備えた動物しか食用にしてはいけないんだ。そんなわけでユダヤ人は豚肉を食べないのにもかかわらず「豚」呼ばわりされた。そこで隠れユダヤ教徒≠見つけ出すのに豚肉が登場する。
B : 隠れキリシタンの踏み絵みたいなものか。
A : そういうことだね。「あいつは豚肉を食べないらしいぜ」って噂されただけでもユダヤ人だと怪しまれた。逆に豚肉をたくさん食べるのはカトリック教徒の証とされて、カルロス一世なんかはハムの名産地エストレマドゥーラに離宮を造ったくらいなんだ。
B :

じゃあ居酒屋とかでハモン・イベリコを注文しても手をつけない奴は隠れユダヤ教徒ってわけだな。

A : そうとは限らないだろ!単に好きじゃないだけかも知れないし、だいたい日本におけるユダヤ教徒の割合なんて本当に微々たるものだし。
B : 逆にもりもり食べるのはカトリックか。
A : ただの食いしん坊である可能性の方がずっと高いよ!
B : 黙れ、この豚野郎!
A : 誰なんだよお前は!