見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.27
ノーベル賞

A : 毎年この時期になると話題になるのがノーベル賞。今年は村上春樹が文学賞を取るんじゃないかって期待されてたけど、受賞は逃したね。
B : あいつ落ち込んじゃってさ。なぐさめるの、大変だったよ。
A : 誰なんだよおまえは!
B : 新橋のガード下の焼き鳥屋でやったよ、残念会。
A : そんなせこい場所なのかよ!
B : 焼き鳥は“ねじまき鳥”、店の親父は“鳥刺し男”っていうんだけどね。
A :

くだらないよ!ところでノーベル賞を受賞したスペイン人は 7 人いるんだけど、誰か知ってる?

B : セルバンテスくらいだなあ。
A : 時代が全然ちがうだろ!セルバンテスは四百年前、ノーベル賞はまだ百年ちょっとしか歴史がないんだよ。
B : じゃあペネロペ・クルス?
A : ボケがベタすぎてツッコむ気にもならないよ!スペインは文学賞が多いのが特徴でね、最初に受賞したのが劇作家のホセ・エチェガライで 1904 年。次がハシント・ベナベンテで 1922 年。
B : 知らないな。
A : 知名度は低いね。三人目はフアン・ラモン・ヒメネスで 1956 年。
B : あ、知ってる。代表作は『サパテーロとアタシ』だっけ?
A : 『プラテーロとぼく』だろ! 1977 年には詩人のビセンテ・アレイクサンドレ、そして 1989 年に小説家のカミロ・ホセ・セラが受賞。
B :

が、ドーピング発覚で失格。

A : オリンピックじゃねえんだよ!残りの二人は医学・生理学賞なんだけど、 1959 年のセベロ・オチョアよりずっと有名なのがサンティアゴ・ラモン・イ・カハール。受賞したのは 1906 年で、ちょうど今から百年前。
B : なんで有名なんだよ?
A : 俺もよくはわからないけど、簡単に言えば、神経系の構造を解き明かしたかららしい。信号が神経を伝わるわけだけど、その神経系はニューロンという独立した単位で成り立っていて、ニューロンとニューロンの間はシナプスと呼ばれる接合部分で連絡し合っているということを発見した。
B : ……それって常識じゃないの?
A : だから、それを百年も昔に発見したからすごいんだろうが!最近はうつ病が急増して社会的問題になっているけど、うつ病はシナプスで伝達物質がうまく伝わらないのが原因らしい。ラモン・イ・カハールはこういう分野での研究の基盤をつくった、偉大な人なんだよ。
B :

そう言えば、このあいだアルモドバル監督の『オール・アバウト・マイ・マザー』を久しぶりに見たら、ラモン・イ・カハール病院っていうのが出てきた。

A : スペインを代表する大病院だからね。政治家が倒れたりするとよく担ぎ込まれる。
B : スペインのノーベル賞受賞者は 7 人か……。
A : それに対して日本は 12 人。
B :

勝ったな……。

A : 勝ち負けじゃないと思うけど。それに人口がちがうし。日本は 1 億 2 千万人、スペインは 4 千万人で日本の三分の一だから、人口に対する割合からすればスペインの方が多い。
B : 村上春樹にがんばってもらいたいね。
A : いつか受賞できそうな勢いだしね。
B : 俺は推薦しないけどね。
A : どっちなんだよ!ていうか、もともと推薦する資格がないだろ!