見てきたようなウソをつき por 微笑問題
ars gratis ars
   古屋雄一郎
Vol.18
なぜか木曜日


A : 前から不思議に思ってることがあるんだけど。

B : 何だよ。

A : パエーリャのことなんだけど。

B : パエーリャか。オレ大好物。自慢じゃないけどちょっとうるさいよ。

A : そうなの?

B : 何でも聞いてくれ。大船に乗ったつもりで。

A : マドリードとかバルセローナで安いレストランに行くと、木曜と日曜しかパエーリャを出さない店が多いんだよね。何で木曜と日曜なの?

B : 知らない。

A : いきなり降参かよ!大船じゃなかったのかよ!

B : タイタニックだって沈むときは沈むんだよ。

A : 意味わかんねえよ!

B : でもたしかに木曜と日曜だけってところ、結構あるよな。

A : ちゃんとしたっていうか格式のあるレストランは別だけど、ほら、学生とかサラリーマンなんかがよく行く手頃なレストラン、日本でいえば定食屋みたいな。ああいうところは木曜と日曜なんだよね。

B : 日曜はわかるよな。大勢で食べるから。

A : 家族とか友人とか親戚とかが集まってね。それはわかるけど、どうして木曜なのか…。

B : 本当かどうかわからないけど、新鮮な魚がレストランに届くのが昔は木曜日だったっていう話を聞いたことがある。

A : そうなの?

B : 日曜日に漁に出て魚を獲る。それが市場を通じて店に出回るのが水曜か木曜だっていう。

A : そうなのか。鮮度とかだいじょうぶなのかな。心配になるけど。

B : 木曜といえば、このあいだ丸谷才一さんのエッセイで似たような話を読んだ。

A : どんな?

B : 去年文藝春秋から出た『綾とりで天の川』っていう本なんだけど、丸谷さんが昔ロンドンに住んでいたころ、宿のレストランでローストビーフをよく食べた、それが木曜日と決まっていたんだって。

A : へえ。

B : その日になると給仕たちが普段より張り切ったんだって。

A : でもどうして木曜なんだろうね。

B : それはやっぱり日曜日に漁に出て牛を捕る、それが届くのが木曜だからじゃないの?

A : 漁はしないだろ、牛なんだから!