| A : |
今回とりあげるのはエスペルペント(esperpento)。聞き慣れない言葉だと思うけど。 |
| B : |
エスペラント? |
| A : |
ああ、確かに似てるね。人工言語だよね、エスペラントは。百科事典によると1887年にポーランドの眼科医ザメンホフが考案したらしい。世界中の人が同じことばでコミュニケーションできるようにって。実はエスペルペントもことばに関係するんだけど、でも、人工言語のエスペラントとは無関係なんだ。 |
| B : |
ちぇっ、エスペラントなら詳しいんだけどな、俺。 |
| A : |
そうなの? 初耳だな。 |
| B : |
なにしろ母語がエスペラントですから。 |
| A : |
いきなりウソだろ! いないよ、日常生活でエスペラント使ってる人なんて! |
| B : |
ニホンゴ、オボエルノ、クロウシタヨ。 |
| A : |
いんちき外国人か、お前は! エスペルペントはスペインの小説家で劇作家のラモン・マリーア・デル・バリェ=インクラン(1866-1936)が生み出した手法のことなんだ。代表作は戯曲『ボヘミアの光』(Lulces de Bohemia)。1920年に雑誌に発表した。 |
| B : |
懐かしいなあ! |
| A : |
なんだ、知ってたのか。読んだことあるの? |
| B : |
クイーンの大ヒット曲だろ? |
| A : |
『ボヘミアン・ラプソディー』だろ、それは! 歌じゃなくて戯曲だよ! |
| B : |
でも、ギキョクってさ、漢字で書くと「戯曲」だろ? 「曲」の字が入ってるから、てっきり音楽のことかなと思って。 |
| A : |
要らないんだよ、そんな重箱の隅つつくようなこまかい突っ込みは! |
| B : |
じゃあ、でっかく突っ込もうか? |
| A : |
でっかく? |
| B : |
「夢みた夢みたって、どんな夢みやがったんだお前の夢は。大きな夢みたって、どういう夢だ。たっつぁんなんざァお前、富士の山に腰をかけたってぇ夢みてる。ずいぶん大きいじゃねえか」
「うーん? 俺の夢なんざァ…もっと大きいや」
「そうかい? どんな夢」
「うん。ナスの夢だい」
「ナスの夢? ナスなんぞお前、どれだけ大きいんだ? 大きいったってお前、なんだろう? まあ、一尺ぐらいのナスっていやあ、かなり大きいな」
「そんなんじゃねえんだ。もっと大きいんだ」
「はあ? するとなにか、三十寸くらいのナスか」
「もっと大きい。ずっと大きいや」
「畳一畳くらいか」
「もっと大きい」
「じゃあ…この六畳の座敷いっぱいくらいのナスか」
「いやあ、もっと大きいんだ」
「…じゃ、この家くらいか」
「もっと大きい」
「…町内くらいか」
「もっと大きいや」
「…うーん、どんな大きいナスだ」
「暗闇にヘタつけたようなやつ」 |
| A : |
五代目古今亭志ん生師匠の小噺(こばなし)じゃねえか! |
| B : |
おあとがよろしいようで……。 |
| A : |
よろしくねえよ! なに延々引用してるんだよ! だいたい長すぎるし、しかも「ナスがでかい」ってだけの話で、全然俺に対する突っ込みになってないだろ! |
| B : |
まあ、いろいろご意見もあろうかと思いますが、なにしろ未曾有の震災でございますから、ここはひとつ、小異を捨てて大同につく……ということで、よろしくお願い申し上げたいと、こう願っておる次第であります。 |
| A : |
もう意味さえわからないよ! 話を戻すけど、エスペルペントっていうのは、特徴をひとことで言えば、デフォルメだ。登場人物の風貌、言葉づかい、振舞いなど、何もかも歪んだ形でグロテスクに描き出す。「歪んでる」ってところがいちばんの特徴だ。 |
| B : |
歪んでるといえば、民主党の前原誠司も顔の右半分、特に口もとが歪んでるよな。 |
| A : |
関係ないだろ! |
| B : |
「俺に較べればまだまだひよっこだ」って、麻生太郎は自信たっぷりらしい。 |
| A : |
なんの自信だよ! 『ボヘミアの光』の主人公はマックス・エストレーリャという盲目のボヘミアン詩人で、モデルはバリェ=インクラン本人だ。この詩人がマドリードの下町、プエルタ・デル・ソルの南にある「猫小路」(Callejón del Gato)に入ると、カフェの店先に表面が凸凹に波打った鏡があるんだ。遊園地とかにあるよね、体がぐんにゃり曲がって映る鏡。 |
| B : |
顔や体の一部が大きくなったり小さくなったりする鏡な。 |
| A : |
デフォルメのイメージが全編に貫かれているのが『ボヘミアの光』だ。 |
| B : |
しかし、なんで「歪み」にこだわったのかな? |
| A : |
当時のスペインの現実を描くのにぴったりだったからだろうね。1920年前後といえば初の世界大戦直後で、ヨーロッパは死屍累々だった。スペインは1898年の米西戦争でアメリカに負けて以来、国際的な存在感が失墜して国情は不安定、30年代に入ると内戦に突入する。 |
| B : |
まさに激動の時代だな。 |
| A : |
スペイン演劇界の最高の栄誉はマックス舞台芸術賞(Premios Max)といって、主人公のマックス・エストリーリャにちなんでつけられたんだ。日本だと紀伊國屋演劇賞に相当する。 |
| B : |
日本の MAX は、もと SUPER MONKEY'S で、安室奈美恵ちゃんがメンバーだったんだよな。 |
| A : |
なんの話だよ! |
| B : |
最近の宣伝写真を見るとフォトショップでかなりデフォルメしてるぞ。 |
| A : |
うるさいよ! |