スペインへ来たのはいつですか?留学先にバルセロナを選んだ理由は何ですか?
ギター留学のために、去年の8月、初めてスペインへ来ました。それから、学生ビザ取得のため一時帰国をして、今年1月にスペインに戻りました。僕の場合、ギター留学ということで、留学先はスペイン以外の国は考えませんでした。漠然とギターの歴史や文化、風土を感じられる気がしていましたし、もともとスペイン音楽が好きで、フラメンコが好きだったこともあると思います。
初めはマドリッドを考えていましたが、学校の事情、またギター事情を考えてバルセロナに決めました。バルセロナではたくさんの優秀なギタリストが教えていますし、それに世界各国からレベルの高い留学生が集まっています。こういった環境の中で、多くの刺激を得ることができます。またスペインでありながら、ヨーロッパの文化を肌で感じることのできる場所でもあります。
実際にバルセロナの生活が始まり、いろいろなものに触れていく中で、ヨーロッパ音楽の伝統を感じることができたと思います。
現在、通っている学校について詳しいことを教えて下さい。
| ルティエール芸術音楽学校は楽器店を持つギターの専門学校ですが、その他にもピアノ科や弦楽器科、管楽器科、作曲やソルフェージュ、アレキサンダーテクニックなども学ぶことができます。また著名な音楽家の公開レッスンやコンサートの他、講師や生徒のためのコンサートも頻繁に行うなど、アットホームで活動的な学校です。 |
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留学当初の様子を教えて下さい。
こちらへ来て間もないころは全てが初めてで、まして言葉の問題も大きく、いくつもの簡単なはずのことで苦労をしました。例えばアパートが決まるまでの間、住所の仕組みも地理や交通も分からない状況では、その部屋を見学に行くことすら難しかったり、電話で用件を伝えるだけでも難しかったりと大変でした。
しかし、音楽の勉強という意味では全てが新鮮で興味深く、学校でのレッスン以外にも、イタリアの巨匠オスカー・ギリアなどのマスタークラスに参加する機会に恵まれるなど、今まで思いもよらなかった外国人演奏家の技術や音楽的発想は、大きな刺激になりました。
それと…、CDショップや無料でCDを借りることのできる図書館などで、もうずいぶんたくさんのスペイン音楽を聴きました。やはり自国の音楽を大切にしているようで、日本では見ることのなかったものが豊富に揃っています。
ファリャ、トゥリーナ、ロドリーゴ、グラナドス、アルベニスといった近代学派や国民学派は当然のこと、トマス・ルイス・デ・ビクトリアを始めとするルネサンス・バロック期の作曲家達の弦楽アンサンブルや声楽曲、ファスチやアリアガなど古典期の作品などは、いかにもスペインのキリスト教文化を感じさせられます。特にアリアガは20歳という痛ましい早世ですが、それにもかかわらず美しい弦楽曲の数々には心打たれるものがありました。
フラメンコに関しては、パコ・デ・ルシアやビセンテ・アミーゴといったギタリストのものを主に聴いていましたが、それ以前のギタリストやカンタオール(フラメンコ歌手)のものもずいぶん聴きました。スペイン音楽にどっぷりと浸りきっていますね(笑)
イタリアの巨匠、オスカー・ギリア氏と
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日本で学ぶのと、スペインでギターを学ぶことの違いは何ですか?
日本で勉強している間、何人かの先輩音楽家の方々が僕に留学を勧めてくれましたが、僕自身スペインへ来てその本当の意味が分かった、という気がしています。今までの生まれ育った環境とは全く別な環境の中で生活するということは、新しい価値観を学ぶことになり、そして今まで以上の自覚を持つことにつながるのだと感じています。そういったものを、人間的にも音楽的にもプラスにしていかなければならないと思います。
今までいた土地よりもさらにより良い環境の中で勉強をするということは、当然、学ぶことがより多くあるわけです。その上、もともとクラシック音楽を勉強している者にとっては、ヨーロッパの伝統や文化を間近で見るということは、ヨーロッパ音楽の源を感じることにもなると思います。僕自身、様々な先生のレッスンを含め、そういったものを感じることのできる機会がこれから先もたくさんあるでしょう。自らも積極的に求めていき、楽しんで勉強していきたいと思います。
スペインに留学してから影響を受けたアーティスト、または出来事はありますか?
現在、習っているリカルドのテクニック、音楽性には驚かされるところが大きかったです。15年ほどギターを弾いてきたけれど、全く知らなかったギターの一面を見せられたようで、音楽性にしても今まで考えたこともなかったものを見せられたようでした。
その他、こちらで知り合った音楽家との交流の中でも、様々な価値観や演奏法などに影響を受けました。しかし、それらは確かに素晴らしいものであることには変わりはないけれども、時間が経って冷静に振り返ってみると、プラスの面とマイナスの面があることに気が付きます。自分なりの感性で消化して、取り入れたり捨てたりすることが大切だと思っています。
もうひとつ考えさせられたことがあります。以前、日本にいるときから欧米人の演奏を聴く度に、時間の捉え方が日本人のものとは異質な、とてもゆったりと落ち着いたものであることを感じていました。こちらに来て、こちらの人々を見る中で気づいたことは、どのようなことに関しても自分のペースというものがあり、周りによってそれを崩されないということです。
それは特に田舎の方に行く度に感じたことですが、ここバルセロナでもそれらは見られます。街の人々はとてもゆったりと暮らしています。労働時間にしても遅く来て早く帰り(笑)、残りの時間を楽しんでいるように見えます。また、スーパーのレジ、ビルの受付や銀行の窓口など、お客さんが待っていたとしても彼らは自分の用事を悠々と済ませます。そして待っている側も悠々と待っています。
全てのことに順番があり決して焦らない。日本では見られないことでどちらも良し悪しですが、そういった時間の感覚というのは、どこか音楽に影響を与えるのではないかと思います。
バルセロナは國松さんにとってどのような街ですか?
『ギターを勉強する』という意味で最適な環境であることはすでに挙げましたが、音楽とは全く離れて、バルセロナは想像していた以上にとてもおもしろい街です。場所によって、様々な顔を見せてくれます。ビルやカフェ、ブランドショップなどが建ち並ぶ近代的な部分、伝統的な古いスペインの街並みを感じさせるひっそりとした通り、ガウディに代表されるようなモデルニスモのある意味特異な建築物、またグエル公園やモンジュイックのような自然に親しめる丘や山…という風にいろいろなものに触れる度、興味深く、その文化の懐の深さを感じてきました。
また大都会だけに、生活をするという意味でも何不自由はありません。メトロやバスが張りめぐらされているため交通には困らないです。それに、僕が住んでいるのは市の中心ではないのですが、歩いて2分以内の範囲にはスーパーマーケット4件ほど、銀行も5件ほど(こんなに密集しなくてもいいように思いますが…)、郵便局、図書館、レストラン、そしてバルに関しては数知れず、その他にも様々なものがたくさんあります。いろいろなものが密集していながらも街並みは美しく、素晴らしい都市であると思います。
今後のご予定は?
もうすでにこちらに来て1年になりますが、留学期間については残り2、3年を考えています。学校に関しては、現在、通っているルティエールで勉強を続けて、その後はカタルーニャ上級音楽院(ESMUC)を考えています。ESMUCへの進学については、まだはっきり決まっていませんが、来年からはそこで学びたいと考えています。
将来の夢や目標などを教えて下さい。
僕自身、「クラシックギタリスト」というタイプ分けになるのかも知れませんが、実のところクラシックギタリストになりたいとは思っていません。クラシックというジャンルに対してもこだわりはありませんし、ギター1本の世界に閉じこもった活動をしたいとも思っていません。将来の活動についてはいろいろなプランがありますが、今はその時のためにじっくりと力を付けるときだと考えています。
具体的に言えば、過去の作曲家によるクラシックギターのための既成曲を演奏していくタイプのギタリストにはならないだろうと思います。素晴らしい先輩ギタリストや、また同世代にも優秀なギタリストがたくさんいるので、僕は違った形で僕にしかできない音楽を追求していきたいと考えています。オリジナルや即興演奏、もしかするとポップスなどをやるかも知れません。異質なものや革命的なものを求めているわけではありませんが、「こうあるべきだ」という心の底から聞こえてくるものに従って、音楽に取り組んで行きたいと思います。
取材・文 浅野ひろ子
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