1990年、スペイン滞在時の筆者


若林雅人さんのプロフィールは こちら


フラメンコをやっている日本人は異様である。

そう思ったことはありませんか?

最初に見た「日本人のフラメンコ」を未だにハッキリ覚えている。
異様であった。東京の暑い夏の昼下がり。まぶしく光るコンクリートの建物の入り口に「・・・フラメンコ、入場無料」という文字。好奇心に駆られた僕は何気なくその闇へと入っていった。さほど大きくない会場内は独特の重苦しい空気に満ちていた。こんなに晴れた日に暗闇で赤いスポットライトを浴びながら、派手な衣装に濃い化粧の女性が、険しい表情でゆっくりと踊り続ける。「この人は何を考えているのだろう?」と不思議に思ったものだ。

それでも未知の世界に対する興味とギターの音の魅力には勝てず、会場の一番後ろに立って見続けた。
と、その時である。

「オ〜レ〜」

左隣で僕と同じように立って見ていた女性が、低く太く、そしてハッキリとした声でつぶやいたのである。

もぉ、ビックリ!である。体が冷たくなった。皆さんは「オ〜レ〜」なんて掛け声を普通のライブで聞いた事ありますか?僕はありません。しかもその言い方が怖いのである。絞り出す様な、心霊現象のエクトプラズムに音を付けたらこんなの感じではないだろうか、という不気味な響き。

「オ〜レ〜」会場にいるのは普通の客だと思って安心していた僕は突然、緊張しまくった。もしかしたら観客も出演者も全員仲間で、この後に怪しい勧誘でもあるんじゃないだろうか。恐ろしさと不信感で思わずその人の顔をにらんでしまったのであるが、その彼女は舞台以外ここには存在していないとばかりに再び「オ〜レ〜」とつぶやいたのである。

う〜ん、とうなって外に出ると相変わらず日差しは強い。蝉は鳴いてる。日本の夏だ。

異様であった。

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「オーレ!」

それから10年以上が過ぎ、まさか自分が「オーレ!」と叫ぶことになろうとは一寸先は闇、舞台の上にはスポットライトである。まいったね。お恥ずかしい。

僕はもともと絵の勉強がしたくて、22歳の時にスペインへ行ったんです。画家になりたくて。その時、最初に知り合った画家がマドリッド在住の有名なフラメンコ狂で、少しばかりギターを弾けた僕に実に丁寧に、そして自分で唄ってフラメンコの魅力を教えてくれたんです。彼が紹介してくれる人はフラメンコ関係者ばかり。何かというとみんなで一緒に食事をしたりコンサートを見たりして遊んだりしている内に、フラメンコ好きな彼らが大好きになっちゃって自然とフラメンコの世界に惹かれていったという訳。その後、現代美術と呼ばれる世界にのめり込んでロンドンへ留学したり、と常に住所不定変職。現在に至る。

ところで僕はズーッと前から日本のフラメンコ達に疑問があるんです。

「なんで、自分で曲を作らないんだろう?」 「なんで、日本語で唄ったりしないんだろう?」 「なんで、本来は大衆芸能であるフラメンコが、ここ日本ではいつまで経っても特殊芸能なのだろう?」 「なんで、日本でスペイン人と同じ事やっていて欲求不満にならないんだろうか?」

実はこれらの疑問に対する答えは簡単で「フラメンコはスペインの文化だから」。ハイ、オワリ。

でも、せっかく日本で生活している日本人のフラメンコ好きなんだから、「今、ここ」で感じられる自分なりのリアリティーを音楽で表現するのはとても自然な行為だと思いませんか?僕はそういう遊びがしたくて、ささやかながら毎月一回、自分で作った日本語の歌のライブをやっているんです。内容は身近かなネタばかりで、知り合いのフラメンコスタジオやタブラオの話とか、日本に連れてきたフラメンコギターと僕の会話だったり、親の実家での思い出話とか、そういうのをタンゴとかルンバで歌っています。

そうは言うものの、やっぱり「フラメンコ」っていいんだよねぇ!僕はカンテの伴奏が、特にソレアの伴奏が好きで、自分のライブでもコーラスの女性にお願いして必ず一曲はソレアを唄ってもらうんです。そうすると何だか真面目な気持ちになれるんだよね。フラメンコは偉大だ!

ではスペインでフラメンコ好きになってしまった、そんな僕の関心をこれから色々と書いてみようと思いますのでどうぞよろしく御贔屓に!



5月15日(木)アルハンブラ西日暮里店で僕のライブをやります。今回は女性コーラスユニット、ラス・カナリアスとフラメンコ以外の音楽で活躍する2人がサポートメンバーとして出演してくれる事になりました。
「UNSCANDAL」のドラマーとして一年中全国ツアーに忙しいジャッキー天野君と、芸能界でも活躍するベーシスト藤谷一郎君がウッドベースで参加。フラメンコのカンテソロやラス・カナリアスの歌声に彩られた日本語のオリジナル曲など盛り沢山。アルハンブラ自慢の美味しい料理と共に5月の夜をお楽しみ下さい。もちろんドリンクだけでもOKですよ。