「ヘレスのブレリア」で知られる大沼由紀さんに師事して5年。少しずつ活動の場を広げている近藤 尚さんにインタビュー。

 



フラメンコはすごく大切なもの。一生勉強していきたい

 「私たちは、ヘレスで生まれたわけでもない。生まれ持ったものがあるわけでもない。環境が整っていたわけではない。いわゆる外国人の私たちには何もない。だからこそ努力をしなければならない。とにかく歌をよく聴き、コンパスを感じる隙のない踊りができるよう努力しなければならない」

 これは私が、大沼先生のクラスに通って学んだことの一つです。

 そもそも私がフラメンコに出会ったのは、今から約11年前のこと。友人から、たまたまアントニオ・ガデス舞踊団のチケットをもらって「炎」を観たんですね。

 初めてのフラメンコだったんですが、ものすごく感銘したんです。それで今度は「カルメン」のチケットを買い、観にいったのがフラメンコを始めるきっかけとなりました。

 とにかく、踊りにも歌やギターにも強烈に感動したんです。それまでも音楽はけっこう好きだったんですが、フラメンコというものは全然違う。なんだこれは!というものすごい驚き、ものすごい感動を覚えたんです。踊りにもフラメンコにも何の縁も興味もない生活をしていた私がそれを境にして、どうしてもフラメンコを習いたい、そう強く思うようになりました。

 当時はまだまだ学生。授業とアルバイトもある。ですから、週に1日ぐらいでしたが小松原庸子スペイン舞踊研究所のクラスで習い始めました。踊るということ自体が初めてでしたから、最初に習うセビジャーナスも大変でしたね。手と足が違う動きで、さらに指の動きもパリージョも付く。本当に、わけがわからず、こんなの自分には無理だ!信じられない踊り!そう思いました。

 でも心の底では、「どんなに時間がかかってもいいから踊れるようになりたい!」「私は続けていくんだ!」と、そんな気持ちを持っていました。

スペイン留学で打ちのめされる

 その後、何人かの先生に教えてもらいましたが、フラメンコは習いに行くときだけの練習じゃだめなんですよね。自分で練習する。でも、自習となると結局、何をやっていいかわからない。一人でスタジオを借りても、何をやっていいかがわからない。

 でも、ブラソや、プランタの打ち方など、とにかくやってみようと、続けていきました。フラメンコにドップリ浸かっていたというよりも、とにかくわからないことだらけだったので、自習しなければ追いつかない不器用なせいもあったと思います。

 96年には、セビージャにも2ヶ月間の留学をしました。フアナ・アマジャに師事していたんですが、本当にショックを受けましたね。全てが違う。当然ですが、フアナは全てがスゴイんですよ、本当に。フラメンコというものは違う国の違う文化なんだなとつくづく感じさせられました。

 もう、内側から出てくるものが違うんですね。ただフアナがそこに立っているだけで違うんです。そこにはオーラがある。フアナが踊り始め、腕を広げただけでそこを包む雰囲気が変わるんですよ。それを目の当たりにする。感動というよりショックでした。

 スペイン滞在中には、ヘレスのブレリアのクルシージョにも参加しました。これもまた、ものすごい衝撃。いったいこれは何なのだろう?と。

 メディアコンパスも、頭ではわかっている。私も、振りは覚えている。でも覚えているだけなんです。頭で理解しているだけで、それを踊っているものが、目の前の踊りと違うんですよ。自分の踊りは薄っぺらなものなんです。

 どうすればいいの?わからない。何なんだろう?わかりたい。そう強く思うにつれ、勉強しよう!そう決意を新たにしました。

 行ってよかったです。自分ができないことばかりなんだ! という、打ちのめされた気持ちが強くなり、さらに練習しなければならない!そう考えさせられました。スペインから戻ってきた私は、よくも悪くもものすごく練習をしましたね。とにかく頑張らなければ! そう思っていました。

大沼由紀先生との出会い

 大沼先生のところに通いはじめたのは97年、春のブレリアクラスから。ヘレスのブレリアに興味を持っていたので、セビージャから戻った次の年に、すごいブレリアを踊る先生がいるという大沼先生の噂を聞き、すぐに連絡したんです。来週から習いに行きます、と。それが先生に習い始めたきっかけです。

 先生のブレリアはとにかく新鮮でした。クラスには生徒が7−8人ぐらいいました。まず先生が手本を見せて、そして皆で練習して、最後に一人ずつ踊るんです。先生は私に、「振りとしては理解しているけれど、感じ方が違うよね」と言いましたね。まさにその通りだったんです。

 「リズムのとり方とか、どこで振りが変わるとか、どこでジャマーダが来るということは理解しているけれど、唄い方(大沼先生流の、コンパスのとらえ方、感じ方)が違う。呼吸の仕方が違う、感じ方が違うよね」

 そう言われたんです。ああ、私はそれをわかりたいんだ。それがわかりたかったんだ!と強く感じました。

 先生のクラスでは、体の基礎も鍛えます。踊る前に必ずエクササイズをするんですね。「ヘレスの人々はさりげなく踊り、サラリと踊っているように見えるけれど、でも体の中にはしっかりコンパスがあり、決して隙がない。さりげなく見えるけれど、実は体全体を使って表現しているんだよ」とは、先生がよくおっしゃることです。

 「腹から踊れ」ともよく言われますね。小手先だけの振りではなく、とにかく腹から踊れ、と。つまり、自分のなかでコンパスを感じ、そこではじめて体を動かしなさいということなんです。

 全てのどんな動きも、どんなマルカールだってフラメンコには必要なもので重要なものだということです。そのうえで、力の強弱があり、絶対的な緩急があるということを私に教えてくれました。

 絶対的な緩急。そして、単純に機械的に動くのではなくて、自分がどんなふうにコンパスをとらえていてそれをどう表現するかということを、しっかり持って踊らなければならない。それはブレリアに関してだけではなく、全ての踊りに対して言えることであること。それを私も常に頭に置いて踊るようになりました。

フラメンコとはすごく難しいもの…


12月24日、サラ・アンダルーサでのクリスマスディナーショーに出演。詳細はこちら

 大沼先生は厳しいですよ(笑)。フラメンコとはものすごく難しいもの、大変なことなんだと私自身、強く感じるようになってきました。

 始めた頃よりもどんどんと見えてくる。勉強して、わかることが増えてきてもまだまだ氷山の一角でしかない。やればやるほど、難しさがわかってくるんです。先生の厳しさは、そういう難しさを体感してきた上でのことなんだと思うんですね。フラメンコの難しさ、厳しさというのをわかっているからこその、厳しさだと思うんです。


 いま私のいる場所は、フラメンコを始めたときから考えると、やっと一歩踏み出したところ…そう思っています。やりたいものを見つけた!進みたい道が見えてきた!そういう一歩です。

 私にとってのフラメンコはものすごく大切なもので、一生、勉強していきたいものだから意味のある一歩でもあります。自分が感じていることを全身を使って表現できるようになりたい!私は踊り続けるために、これからも頑張りたいと思います。


<近藤 尚さんへのメッセージ>

 初めてブレリアのクラスに来た近藤さんを見たときに、彼女にはキレイな水が流れていると感じました。変な癖がなくて、どこにでも突き進んでいける素材だと。でも、もっとどん欲であって欲しいとも思いましたね。

 彼女のその部分が変わったのは、お子さんが産まれてからでしょう。子供が産まれてからは強さが加わってきて、いい踊りをするようになりました。子供を産んでからの方が時間もなく、レッスンする時間が限られている分、どん欲さが出てきたのでしょうか。すごく良くなりましたね。

大沼由紀先生と

 子供が産まれると誰でも、これから先をどうしよう?という壁にぶつかると思うんですね。でも、そういう状況に置かれたからこそ、この道を曲げないという強さができたのだと思いました。

 人生、何があるかわからない。でも、どんなことがあっても彼女は踊り続けていくだろうと感じています。彼女には幅の広い踊りができるようになることを願っています。

(大沼由紀さん・談)