近松門左衛門の世界をフラメンコで表現。しかも、カンテ(唄)はすべて日本語という斬新な取り組み。昨年、文化庁芸術祭優秀賞を受賞した「曽根崎心中」の再演が間近に迫っている。オリジナリティあふれる作品づくりで注目される鍵田真由美さん、佐藤浩希さんに、今回の見どころを中心に話をうかがった。

 

鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ
舞踊団公演「曽根崎心中」は
10/19(土)14時、19時と10/20(日)14時から
新宿・全労災ホール<スペース・ゼロ>で上演
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深みのある踊りでの表現を追求


――エンターテインメントとしては、あまりにも重い"心中もの"という題材に取り組まれたきっかけは?また、今回の見どころをお聞かせください。

佐藤 舞台監督の赤木知雅さんに、「曽根崎心中」のフラメンコでの舞台化を薦められたのがきっかけでした。二人で悩みぬいて、一昨年の暮れにようやく決心したんです。しばらくして、作詞家の阿木燿子さんのライブハウスで出演を終えた後、阿木さんからも「曽根崎心中をフラメンコでやってみたら?」というお話があって、びっくりしました。

この二つはまったく別の話です。すごい偶然でした。阿木さんは、もともとご主人の宇崎竜童さんとロック版「曽根崎心中」に取り組まれていたんです。で、フラメンコに絶対合うからと。このとき、すでに赤木監督のお話があって決意はしていたわけですが、阿木さんからも同じ作品を薦められたことで、驚いたと同時にますます挑戦意欲が湧きましたね。

鍵田 この作品では、カンテはすべて日本語なんです。阿木さんが作詞、宇崎さんが作曲してくださった曲をフラメンコのリズムにアレンジし直して。たいへんな試みでしたけど、日本語で歌われることによって、私たちも踊りでの表現をより深く追求するようになりました。その結果、観ている方にも唄と踊りがストレートに伝わると思うんです。

フラメンコ版「お初と徳兵衛」を演じる二人

フラメンコに関わっている方にとっては、歌詞が日本語ということに最初は抵抗があるかもしれません。でも、日本語だからこそ感情が揺さぶられる部分というのはあると思うんです。また、フラメンコを初めて観る方にとっても、より理解しやすく、舞台に入っていきやすいのではないでしょうか。

今年は会場も違うし、
舞台美術、衣裳も変わってきます


佐藤 これは創作作品ではありますが、もちろんフラメンコとしての根っこの部分を抜きにはできません。ただ、フラメンコのコンパスの中での踊りの技術だけでは限界があり、いろんな発想をとりいれながら表現を追求していく必要があります。モダンダンスでもなく、クラシックバレエでもない、「曽根崎心中」でしか表現できない踊りの表現というものを。
 
鍵田 そう、彼の場合、ふだんフラメンコではやらない手の使い方、首の傾げ方、足さばきなどをシーンごとに常に研究していますね。それがフラメンコのコンパスにぴしっと当てはまるまで。

基本的にストーリーや音楽は初演のときと同じですが、 今回は阿木さんがプロデュースしてくださいました。そして会場が去年とは違うので、舞台美術

や衣裳も大きく変わってきます。私たちとしても踊りの部分で、初演時よりさらに深い表現に取り組み、観ている方たちに伝えたいと思っているんです。

佐藤 音楽はギターのほかピアノ、篠笛、土佐琵琶、パーカッション。これも去年と同じですが、今年はそれにパルマが加わるんです。


情念の世界を描いた題材は、たしかにフラメンコに合う

今回、スペイン人カンタオール(歌手)のアントニオ・デ・ラ・マレーナがパルマを、その子息のマレーナ・イーホがギターを務めてくれますが、実は出演者でスペイン人というのは初めて。"心中"について、また近松の世界をどこまで理解してくれるかと思っていましたが、彼らは昨年の舞台のビデオを見て、最後のシーンでは涙を流していました。「人間の魂を描く」という点で、この作品はよりフラメンコ的であるし、時代や国境を超えて常に人々の魂を揺さぶるものなんだとつくづく思いますね。

鍵田 そういう意味では、宇崎さんをはじめ音楽を担当してくださる方々も、もともとフラメンコとはジャンルが違うわけですが、もはやそういう次元を超えて、とにかく自分たちが持っているものを出し切ろう、表現しつくそうとするエネルギーにはすごいものを感じます。

純粋なフラメンコを追求しながら、
新しいことに挑戦していきたい


――お二人は、98年の「レモン哀歌〜智恵子の生涯〜」では能とのコラボレーションに取り組んで高村光太郎の世界を表現し、文化庁芸術祭新人賞を受賞されましたね。常に新しいことに挑戦しているという印象が強いのですが、このことは、お二人のフラメンコ歴と関係があるのでしょうか?

鍵田 特に創作作品にこだわっているわけではなく、私自身は常に純粋なフラメンコを追い求めています。ただ、いろんなジャンルの方と自然な出会いがあって、ここまで来たという感じです。

私は6歳のときからモダンダンスやジャズダンス、クラシックバレエなどをやっていましたが、日本女子体育短大でフラメンコと出会い、そのインパクトのある表現に強く惹かれました。佐藤桂子先生、山崎泰先生に師事し、卒業後、舞踊団で活動させていただいたんです。特にプロとして活動しようと意識したことはなく、ただ自分自身の踊りの技術を向上させたいという一心でここまで来ました。

佐藤 僕はアントニオ・ガデスの「血の婚礼」というビデオを、たまたま友人に借りて見たのが、フラメンコとの出会いでした。とにかくカンテに驚きましたね。そして、この唄で踊りを表現したい!と思ったんです。

当時、新宿にあった「ギターラ」というフラメンコ・ライブの店で初めて生で見たのですが、そのときに踊っていた鍵田真由美という踊り手を見てこれはすごいと思った。で、その場で弟子にしてくださいと頼みました(笑)。当時はまだ学生で、かなり本気で福祉の勉強をしていたのですが、それ以来、フラメンコ一筋。すべての時間をフラメンコに費やそうと決めたんです。

人との出会いを大切にしたい

――去年の「曽根崎心中」では舞踊団の実力も高く評価されました。指導者としてのお考え、また、お互いをどう見ているかを聞かせてください。

鍵田 生徒さんは、それぞれが目的を持ってレッスンに通われていると思うんです。もっと上手になりたいとか、とにかく体を動かしたい!とか。

皆さん、家庭や仕事場での日常で辛いことや嫌なこともあるでしょう。でも、私たちのところにレッスンに来て、そしてフラメンコを踊ることによってそういうことを忘れられるような、元気になれるような、そういうクラスでありたいと思っています。

佐藤 生徒さんと一緒に「フラメンコ」というものを共有していければ、と思っています。僕はフラメンコの中でもカンテが好きで、やはりフラメンコはカンテがあってこそだと思っているんです。

だから、僕たちのスタジオは踊りを教えているわけですが、フラメンコはカンテがあってこそ踊りがあるという、その部分をきちんと伝えていきたいです。

鍵田 いま彼が話したように、彼は本当にカンテが好き。もとより、本当に心からフラメンコが好きなんです。彼は、そういうことを踊りながら匂わせる、そんな踊り手です。

佐藤 彼女は僕にとっては師匠になるわけで。とにかくスケールの大きな踊り手ですね。その音楽性はもちろん、たとえば風のざわめきや太陽の熱、森の静けさといったことを表現できる人です。彼女の踊りからは、フラメンコ以外の部分も浮かんでくるんですよ。

かといって、二人がフラメンコで同じ方向性を持っているかというと、これがまるで違う(笑)。お互いに感じる部分というのは、全然違うんですよ。そういう意味では、フラメンコを共有していないですね(笑)。

鍵田 たしかに、お互いにないものを補完しあっているという感じ。だからこそ、二人で踊るときはピタッと合うのかもしれないですね。

今後も、とにかく人との出会いを大切にしていきたい。本当に、私たちは出会いに恵まれてきましたから。阿木さん、宇崎さんはじめ、スタッフや生徒たちともそう。違うジャンルの人と出会ってお互いに刺激を受け、さらに成長できたら素晴らしいことだと思います。これからも、そのことを大切にしていきたいですね。

 


取材・文 藤戸良彦