第61回

AMIさん


  「なにがあっても行かなきゃ!」という思いでスペインに渡ってから20年。日本に完全帰国し、東高円寺にスタジオを開設してから4年。「去年の後半は私のフラメンコ人生における最高の落ち込みでした」というAMIさんが、気持ちも新たに、次のステップに向けて始動しつつある。4月には新宿エルフラメンコで男性舞踊手二人を招いてライブ出演。「教えることが大好き」と、日曜入門クラスを新設し、指導にもいっそうの力を入れつつある。悩み、苦しみながらも進化を続けるAMIさんに、スペイン時代を振り返るとともに現在の心境を語っていただいた。


「AMIフラメンコライブ」は
4月16日(水)・23日(水)19時から
新宿エルフラメンコで開催
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夢中で学び続けたスペインの15年

 (スペインに行ってから)20年といっても、なんだか何もかもが最近のことのような気がします。成田空港に向かう途中も、「とにかく、なにがあっても行かなきゃ」という言葉が頭の中を100%占めていて、いつ日本に帰るとか、そういうことは全然頭になかった。行けばどうにかなると思っていたし、帰りの航空チケットも持っていませんでしたから。着いてから1週間の滞在方法とか、そんなことばかり考えていたのを覚えています。

 あのときのドキドキ感というか、異常な緊張感は生々しく覚えています。いまだったら絶対にそんなことできない。やっぱり若さってすごい!岡田昌巳先生に「本場のものを見てこないと話にならない。とにかくスペインに行きなさい」と言われて、それまで100%行く気持ちはなかったのが、その言葉で100%行く気持ちになって、追い立てられるように行った、という感じでした。

 ちょうど15年スペインにいたのですが、いま思えば、帰国する最後まで「もっと勉強しなきゃ」「まだまだ知らなきゃいけないことがある」「まだ足りない」という脅迫観念で生きてた、という感じでした。それだけ貪欲にフラメンコと向き合ってたと言えるのかもしれないけれど、本当に、スペインにいて楽しいと思ったことはなかったですね(笑)

 いつからか、目標もはっきりとしていました。スペイン人のアーティストにも認めてもらえるだけの知識と経験を備えた、スペイン人のアーティストに匹敵するアーティストになること。現地の高いレベルのアーティストと同じくらいのレベルになりたいなりたいなりたい…って、もうそれだけでした。

 5年目くらいから、スペインと日本を往復しながら、日本で教えることも始めたのですが、多いときで年に5、6回往復してたかな。ちょうどセビージャから日本の家まで24時間かかったのですけど、よくあんなハードな生活を続けていたなと思いますね。

 4年前に帰国したのは、父が亡くなって母が一人になったことが第一です。日本にいたら全然気がつかなかったことだけど、陸と陸の間に大きな海があって、そこに暮らしていくうえで血のつながった肉親のいない寂しさというものを、スペインにいる間ずっと感じていたんです。そして、父が亡くなったとき、ここで思い切って日本に帰らないと本当に切れちゃうと思ったんです。

 それと、スペインでどんなに頑張って勉強しても、労働条件上、スペイン人アーティストと対等な立場で踊ることができない現実というものがあって、それを乗り越えることをずっと夢見てかじりついていても100%無理な壁があるということがわかった、ということもありました。

 そうであるのなら、日本でちゃんと自分で土台を築いて、それまで勉強してきたことを実践で出せるようにしたらいい、と思ったんです。自分でいい環境を選んでリサイタルを開いて、呼びたいアーティストを自分で呼べばいいんだと。ちょうど15年で区切りがいいかな、という思いがありました。

フラメンコは自然体から

 帰国して、この東高円寺にクラスを開いて4年になります。当時入門で入ってきた生徒たちが今は上のクラスに移ってしまって、よちよち歩きの子がいなくなったこともあって、今回新たに日曜入門クラスを新設したんです。入門クラスはすでに月曜と金曜に開いているのですが、週末に来たいという声が多かったものですから、また私自身も、新たな気持ちでゼロから教えていこうと思って。

 実は私、教えるのがすごく好きで、特に初心者対象が好きです。かつてはエアロビクスや体操の指導をやっていたのですが、その当時から、できなかった生徒たちが一つずつ吸収して成長していく姿を見守るということに、教える側にとって何ものにも変えがたい喜びを感じていて、ましてやフラメンコのように人生観まで影響する文化の指導をすることは、責任感がものすごく伴うものなので、緊張しながら頑張って指導してます。

 初めてフラメンコを習う人には、「とにかく構えないでやりましょう」ということを話します。思い込みで「フラメンコはこういうもの」と思ってくる人も多いのですが、それらを取り去るためにも、いきなりフラメンコを踊る、ということはやらずに、まずは歩行感覚のようなラクさを知ってもらうことから始めるんですよ。フラメンコというのは、あくまでも自然の流れの中でやるもの。日常生活の歩行の足の運びの延長から入って、無理のない体づかいから自然体で入っていくものだということを覚えてもらうようにしています。あとは日本にはない、リズムの面白さですね。体でリズムを現わすことの面白さを中心に指導していきます。

 中には、何年間かやってきたんだけど、変な癖が付いて始めの第一歩からやり直さないといけない、という人が多くいます。上のクラスを試しに受けたところ、あまりにも基本ができていないということで入門から再スタートせざるを得ない人って多いんですよ。10年やってきた人でも、私の教室では初級から、というケースがほとんどです。

 経験者のほとんどは、腰をどんと落として足がちがちの低い姿勢で「私、足が動かないんです」 と言って来るんです。そこで、「ほらね、ふつうに歩いて手も自由に振れて、それがサパテアードにつながるのよ」と、本人の思い込みをなくしてあげるように、フラメンコは自然体からということを学んでもらうようにしています。

全国から多くの方が受講しに来てくださっているのですが、最近はさらに外国から通ってくれる生徒が増えました。シンガポールや、そして韓国人の方も、去年と今年に2週間ずつ泊り込みで受講しに来てくれました。みんなすごい熱意!本当に関心します!

せっかくのフラメンコだから

 今まで踊りを学んできたけど、どうしても自分で納得がいかない、身につかない、疑問符だけで振りをすすめていくことに耐えられなくなった…という人が来て、試しにレッスンを受けてみて、それで本人はものすごくショックを受けるみたい。でも、そこから「ちゃんとやろうと思い直しました」と入門なり初級からやり直す気持ちになってくれたときは、私としてもすごくうれしくなります。

 かなり癖の付いてしまっている人でも、その人が素直な心で直そうという気持ちを持てば、週1回コンスタントにレッスンに来れば、ほぼ半年から1年で直せることが多いです。要は本人次第なんですが、やはり素直な人は直しが早いです。

 とにかく、体に負担をかけないちゃんとした基本を教えることを心掛けています。基本が身につけば、たとえばスペイン人のどのクルシージョを受けても、受けるだけの器はできる。その器を作るためのクラスでありたいと思っているんです。受けるだけの準備ができていた方が、実際に受けて楽しいですからね。たまにだけど、ちゃんと勉強していった子がスペインに行ってレッスンを受けたときに、スペイン人講師に「だれに習った?」って聞かれて「AMIさん」と答えて、「やっぱり」と言われましたと聞くと、うれしいというか、自分が教えたことが間違っていなかったとほっとします。

 でも、私が教えられるのは、あくまでも技術やコンパスといった面でのお手伝い。そのことは全力でやるけれども、フラメンコって、スタジオだけでは教えられないことがたくさんありますからね。基本技術は長くやっていればそれなりに鍛えられて上達しますけど、あとは、その人がいかにフラメンコを愛して、接していくかで決まってくると思うんです。

 スペイン人のフラメンコのいい歌をいつも耳にするとか、スペインの歴史や今の事情を知るとか、そういう土台の部分を自分で勉強することによって、踊りという氷山の、水上の一角だけではなく、海面下のことが理解できてくる。「技術だけでなく、もっともっと掘り下げてフラメンコを勉強したら」と生徒にもいつも言ってるんですよ。

 特に、フラメンコはカンテ、イコールフラメンコ。踊りはそのカンテの諸々の飾りとして生まれたにすぎない、ということを私もスペインに行ってから学んだのですが、踊りというのはカンテのエッセンスのもとに踊られているんです。そのことに気づかない人がすごく多い気がします。プロの人たちでも、気づいていない人が多い。そのためにも、フラメンコのカンテをたくさん聴くことがいちばん大切なことだと思います。

 どのアートの世界や外国の文化もそうですけど、ファッション的に表面だけをとらえるのではなく、その歴史や背景的なこともきちんと勉強して理解しないと、本質を捉えられないと思うんです。これは、その人の性格と文化に対する謙虚さにもよると思いますけど、私の場合は特に、すごく怖がりで、外国の文化なのだから本質をしっかりとつかめていないと、恐れ多くて人前で踊れないし、人にも教えられないという思いがずっとあるからかもしれません。

 現在学んでいる人たちも、踊り(振り付けや技術)だけにこだわるのではなく、やはりきちんと“フラメンコとは?”という答えを、時間をかけて追求していくと、いつの日か本物のスペインのフラメンコを理解できるときがくると思うんです。せっかくフラメンコを学んでいるのですから。そういう、きとんと勉強しようと思う人が今後、増えてくれたらうれしいです。生意気な意見ですが…。

やっと自分のフラメンコを踊れる気がする

 実は去年の後半は、いろいろなことが重なって、本当に私のこれまでのフラメンコ人生における最高の落ち込みでした。私は何て踊りが下手なんだろう、全然わかってない、向いていないんじゃないか…と思い詰め、もうフラメンコをやめて、どこかの山奥か離れ小島で暮らそうとまで真剣に考えたんですよ。

 その頃、偶然にも複数の生徒や友人から、ものすごく悩んでいる話を打ち明けられることがあったんです。体や身の上のことなど、すごく辛い話です。でも、そんな苦しい環境にあっても、みんなふだんは明るさを失わず、必死に生きて前に進もうとしている。そうした姿に強く胸を打たれました。

 私はこのことで、“生きる道を選んで、前に進もうとする勇気”を本当に学ばせてもらいました。それがきっかけで、ちっぽけな自分を反省し、気持ちの整理もできました。そして今、スペインに渡って以来、本気でフラメンコと向き合い、勉強してきた20年という区切りの年に、ようやく自分で納得のいくフラメンコが踊れるのでは、という気持ちになっています。

 今年はカサ・デ・エスペランサのお正月ライブで幕を開けたのですが、このときはある出来事が起こり、偶然にも生涯忘れられない踊りとなりました。そして、4月16日と23日には、新宿のエルフラメンコでライブを行います。

 共演は男性舞踊手二人、伊集院史朗君と稲田進君です。すごくフラメンコな二人の、男の子ならではの馬力を刺激として感じながら、私もいい刺激を提供し、そのことで彼らも、いつもとは違うエネルギーで、いつもやっているスタイルじゃないフラメンコも出せたら面白いなと思っています。

 男性たちの勇敢なリズムに応えて、スペイン人の歌い手もガンガン応える。今回のライブは、そんなフラメンコの力強いエッセンスが出てくれたらいいなと考えているんです。そして、その中で私が女性として柔軟材のような立場で雰囲気を柔らかくできれば、と。私自身、今からすごく楽しみです。

 今後については、現役で踊れる年数もそんなに長くないから、残っている時間の中でできるだけの進化をしよう、そして今まで学んできたものを、生徒にできるかぎり正確に伝えよう、という思いです。

 自分が現役で踊れなくなったら、生徒に教えるのに疲れたら、どこか、自然があふれたところで自然とふれて、感じて生きていきたい。四季のあるところ、大自然にあふれたところで生きていきたい。でもスペインは絶対にイヤ(笑)。でも、いまはまだまだ自分を進化させなきゃって思ってます。そのためにも、自分を信じて頑張ります。

入門クラスだけではなく、どのクラスも常時受け付けています。入門での最低限の基本ができたら初級クラスに進んでもらいます。

取材・文 藤戸良彦





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