第57回

入交恒子さん(舞踊家)


 入交恒子さんの2年ぶりの公演まで、あとわずか。毎回、ストーリー性のある作品としてではなく、フラメンコ本来の魅力を表現する舞台にこだわり続けるのには、「少しでも純粋なフラメンコの本質に近づきたい」「フラメンコの醍醐味を見ている方たちと共感し、分かち合いたい」という思いが込められている。今回の副題は「MI SOLEA」。入交さんが特に追求し続ける踊りの曲種が名付けられたところに、その意気込みがうかがえる。


入交恒子公演CONCIERTO FLAMENCO Vol.9
「MI SOLEA」は
10月25日(水)19時30分から
東京/草月ホールで開催
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フラメンコはそれ自体がドラマチック

 ギタリストの高橋紀博と創ってきた「CONCIERTO FLEMENCO」も、今回で9回目となります。私には、リズムの躍動感やダイナミズムといったフラメンコ本来の魅力を、より多くの人々の心に響くように表現したい、見に来てくださった方たちと共感したいという思いがずっとあるのですが、そのことを実際に体験したくて、毎回、必死に公演を続けてきました。フラメンコはそれ自体がドラマチックで、もうそれ以上のドラマはないのでは、とさえ思っているんです。

 ストーリー性のある作品ではなく、純粋なフラメンコとしての舞台にこだわるのも、そうした思いがあるからです。舞台でなければ出せないもの、その瞬間でなければ出ないパワーといったものがフラメンコにはある気がするんです。まさに生きた感覚、言葉にならない感情が大切で、回数を重ねた今回も、今の私が出せるものを出し尽くしたいと思っています。

 毎回、スペイン人アーティストと共演させていただき、とても勉強になると同時に、人間的にも気持ちの大らかさといったことを学んできた気がします。今回もまた、歌とギターは何度も舞台をともにしてきた人たちと共演するのですが、瞬間瞬間の息のあったやりとりの中に、フラメンコの醍醐味を堪能していただけると思います。

 そして、踊りには若手バイラオールのラファエル・マルトスを迎えます。彼の持つナイーブな感性がどのように踊りに反映されるか、私としても楽しみです。

 今回は二部構成なのですが、一部では以前に共演して、私自身が踊っていてとても心地良かったチェロ奏者の高山祐子さんにも加わっていただきます。

 チェロとのコラボレーションにより、本来は舞踊のための曲ではない叙情的なグラナイーナを創作し、深みのある音楽による幻想的な世界をも表現してみたいと思っているんです。一部には、こうした試みによって、時代の中で洗練されていくフラメンコの姿を見つめて行こうという意図を込めています。

 二部は、フラメンコの真髄にどこまで迫れるかという新たな挑戦です。私の踊りはよく「エレガントさとワイルドさ」と表現されるのですが、そのことは私自身も意識しており、今回の舞台は、特にこの相反する二面の対比を感じていただければと思います。

今回も気心の知れたスペイン人アーティストと共演。特にソレアでの、瞬間のやりとりが楽しみ。


フラメンコを本格的に学びたくて東京へ

 私とフラメンコとの出会いは11歳の時にさかのぼるのですが、どうしても本格的に学びたくて、大学進学を理由に故郷の高知から東京に出てきました。親にはどうしても東京の大学で勉強したいと訴えたのですが、実際に勉強したかったのはフラメンコだったんです(笑)。

 すぐに、高知で教わっていたモダンバレエの先生のお弟子さんのすすめで小島章司先生に入門し、それ以来、ずっとフラメンコの道を歩んでいます。恵まれていたのは、入門2年目には代教を任され、大学卒業と同時に小島先生のところに講師として就職できたことです。

 奨学金制度でスペインに留学もでき、カルメン・コルテスをはじめ、すばらしい先生にめぐり合えたことも、今思えばすごく運が良かったのかもしれません。帰国後、ビエナル・東京コンクールで奨励賞を受賞し、それがきっかけで小松原庸子先生の舞踊団に入らせていただいたのですが、その結果、スペイン国立劇場の舞台に立てたこと、そして、あのビエナルの舞台にも88年と、90年にはソロで立たせていただいたことは、私にとってたいへんな自信になりました。

 独立して間がない93年に、私自身の公演のお話をいただき、結果、それがずっと今に至っているのですが、ちょうどその頃からスペイン人と共演する機会にも恵まれ、本当に感謝しています。今後も公演は続けていきたいですが、同時に後進の指導にも、今以上に力を入れていきたいと思っています。

ソレアは私にとって永遠のテーマ

 今回の公演でも、最後は私の永遠のテーマであるソレアを踊ります。

 「フラメンコの母」といわれるこの曲を、私は特に大切に、ずっと追求してきました。いろいろな葛藤がありましたが、踊って踊って踊り込んで、今のスタイルを創ってきました。一つのことをずっと続けていると、いろいろと周囲も見えてくるんですね。今は何も考えなくても踊れるようになりましたが、まだまだわからないことはたくさんあります。

 自分ではすごくいいと思っていても、人から見ると良くなかったり、逆に自分では最悪と思っていても、見ていただいた方にはすごく良かったと言われたり…。作為がある時ほどうまくいきません。無作為で、自然体でいられる時に、いちばんいい踊りができるようです。

 今回の副題「MI SOLEA」は、あくまでも純粋なフラメンコの本質に近づけるように、という思いを込めてつけました。フラメンコの道は少し知ればまたもう少し、さらにもう少し、という具合に、まさに永遠です。私ももっといろいろな経験を通じて、舞台でも指導においても、フラメンコの魅力を表現し、伝えていくことができる踊り手になりたいと思っています。

前回の公演にて。タラント。


取材・文 藤戸良彦