私はもともと舞台公演の構成や演出にやりがいを感じていましたので、作品を作って自ら踊るということは考えていなかったんです。
ただ、教室で育ててきた生徒の受け皿として舞踊団を結成したことと、詩の朗読とフラメンコのコラボレーションを実現したいという思いがずっとありましたので、そういうことが重なって、2002年に「王女メディア」の公演が実現しました。
常々、自分の考えをのせて舞台を作るとしたら、これまでに見てきたフラメンコ作品の中で最も強く印象に残ったスペイン国立バレエの「メデア」しかないと考えていたんです。10回以上は劇場に足を運んだでしょうか。あまりに大きすぎるこの作品を選ぶにあたっては、多くの方々から貴重なアドバイスをいただきました。
今回も10のシーンとプロローグ、エピローグによる構成で、これは前作と変わりませんが、最も異なるのは、前作では詩とのコラボレーションのほか、コンテンポラリーダンスなど複合的な要素を多く採り入れたのに対し、今回は、フラメンコを見せることを強く意識している点です。音楽的にも、踊りにおいても、よりフラメンコ的な作品としてご堪能いただけると思います。
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「フラメンコ作品に関心のないラファエルが、
メディアならということで出演を快諾してくれました」 |
多くの涙を誘ったストーリーと
ファルセータ
メディアと結婚するものの、やがて彼女を裏切り復讐されるイアソン役は、今回、ラファエル・カンパージョにお願いしました。すでに6年のお付き合いがあり、人間的にもすばらしい彼なら、この作品を一緒に作り上げていくことができると確信したからです。
ラファエルはもともと、フラメンコ作品への出演には関心のない人だったのですが、「メディア」なら、ということで快く承諾してくれました。結婚式のシーンでは、彼が自分の結婚式で着た新郎の衣裳まで持ち出してくれるんですよ。妥協を嫌うアーティストで、先日までのスペインでの踊りの合わせでも、驚くほどの熱の入れようでした。今回、彼とのパレハが2ヵ所あるのですが、一つは詩の朗読に合わせたマイムなんです。ぜひ楽しみにしていただきたいです。
私がスペイン国立バレエの「メデア」で深く興味を持った死神には、前作ではイアソン役だったクラシックバレエの安藤雅孝さん。イアソンと恋に落ちる王の娘クレウサ役は堀江朋子さんが踊ります。
詩の朗読とのコラボレーションは、やはりこの作品においては欠かせないのですが、今回は野村喜和夫に加えて、女優の木内みどりさんにもお願いしました。また、コントラバス奏者の齋藤徹さんは前回に続き、自らの作曲をプロローグで演奏してくださいます。
前作の舞台を見てくださったお客様からは「フラメンコの舞台でこんなに泣けたのは初めて」という声が多かったのですが、実は前回、特にラストシーンでは私も踊っていて涙が止まりませんでした。これは作品のストーリーによるところもありますが、同時に音楽的にも、涙を誘うほど充実していたということだと思います。
今回も、ラファエルの弟であるフアン・アントニオ・カンパージョがすばらしいファルセータを作ってくれています。特にタラントは泣けますので、楽しみにしていただきたいです。
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| イアソン役で出演するラファエル・カンパージョ |
「メディア」は人生が変わるほどの作品
ライフワークとして大切にしていきたい
先にお話したように、私はもともと、自分で踊ることよりもプロデューサーになることを志していたんです。子どものころにクラシックバレエを習ったことがあるのですが、もっと勉強に励むようにと親の希望でやめさせられてしまい、結局、踊りとしてのフラメンコを始めたのは18歳のとき。親に隠れてカルチャースクールに通いました。
親に話して、発表会に招待したのは20歳を過ぎてから。でも、踊り手としてプロになるには始めるのが遅かった。それならプロデューサーにと思ったのですが、やはり自分でも踊りのことをわかっていないと務まらないと思い、小松原庸子先生、小島章司先生に学び、舞踊団員として多くの舞台にも立たせていただきました。
自分では教室を持つつもりはなかったのですが、自宅をスタジオにして定期的にコンサートを開いていたところ、ぜひ踊りを教わりたいという人が増えて、それならと始めました。その後、新宿でスタジオを借りて一気に生徒が増えたのですが、そこが閉鎖になってしまい、2000年に今の下北沢に移ってきました。
生徒は、入門クラスに入ってくる人は9割がフラメンコ初心者です。経験者の入門も多く、中には私の舞台を見て、「あの時のこの踊りの振付を習いたい」と言ってくる人もいます。
指導する側としては、初心者からプロ志望者まで、あらゆる生徒のニーズに応えられるようにという思いがありますので、私自身も勉強することがたくさんありますね。ただ、フラメンコの基本については、すべての生徒に対して厳しく指導します。立ち方、歩き方から回転、軸の作り方まで。ブラソに関しても、最初からくずそうとせず基本を大切にすることを忘れないでほしいです。
前回の「王女メディア」は、実は舞踊団結成の旗揚げ公演でもあったのですが、今回もまた、舞踊団員として10人の生徒が出演します。
フラメンコを学ぶ身であってもこうした大きな、それも今回はラファエル・カンパージョと同じ舞台に立てるということで、ほぼ全員が仕事を持つ身ですが、頑張って稽古に励んでいます。これも私の教室で学ぶことの魅力かもしれません。
舞踊団員の中には、やがてプロを志す生徒も出てきますが、これまでもスペインに留学する際の学校やアパートの世話や、帰国後の個人レッスンや代教の依頼、タブラオ出演の後押しなど、できるかぎりのバックアップをしてきました。これも教える身の仕事の一部と考えています。
一方で、今後はプロデューサーとしての仕事も増やしていきたいと思っています。実は来年の予定も決まっています。これはフラメンコの公演ではありませんが、こうした外の仕事も経験していきたいんです。そして「メディア」は、今後もライフワークとして大切にしていきたいと思っています。これはもう、私にとって人生が変わるほどの作品なのですから。
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| 「あらゆる生徒のニーズに応えるのが指導者としての使命だと思っています」 |
取材・文 藤戸良彦
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