第55回

高野美智子さん(舞踊家)


 毎年のように精力的に舞台公演に取り組む高野美智子さん。前作『静』に続く今回のテーマ『シルクロード』には、「オアシス諸都市の興亡の歴史に重ね合わせて、一人の人間の生涯を描きたい」という思いが託される。自身の舞踊団に加え、今回は外部の踊り手が4人出演。壮大なテーマと華やかな舞踊陣で、見ごたえのある舞台となりそうだ。


高野美智子フラメンコ舞踊公演
「風の回廊<シルクロード>」は
10月12日(水)・13日(木)19時から
東京/日本橋公会堂(日本橋劇場)で開催
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 シルクロードにはずっと憧れていたんです。その名前を目にしたり耳にしたりするだけで、今でも荒涼とした砂漠をらくだが列をなしていく光景が思い浮かびます。私が高校生のころ、NHKで「シルクロード」という番組をやっていたのですが、冒頭で喜多郎の音楽とともに映し出されるシーンがとても好きでした。

 今年、「新シルクロード」という番組が放映されているのを見て、あー、これだ!と思ったんです。シルクロードをテーマにして舞台で踊りたいと。

 私はシルクロードに行ったことがないし、フラメンコの舞台でなぜ?と思われるかもしれません。でも、ここはかつて漢民族やモンゴル人がオアシスを求めて果てしなく移動した歴史があって、私にはこれが、ジプシーが流浪の末にスペインにたどり着いた歴史と重なるんです。

 シルクロードのオアシスに、新しい都市が生まれては、滅亡する。人の一生にも、始まりがあり終わりがあって、それは小さな単位でいうと、1日の始まりと終わりにつながる。そして、多くの喜びや悲しみがある。つまり、一人の人間が生きていくうえでのさまざまなドラマを、シルクロードの歴史に重ね合わせて表現したい、というのが今回のテーマなんです。

舞台の上で違う人生を生きる

 舞台では私なりに感じた「シルクロード」を表現するのですが、ストーリーがあるわけではありませんので、見てくださる方は自由に感じていただければいいと思います。ただ、シーンごとにテーマがあって、それぞれに都市の名前をつけますので、それがシルクロードを移動していく過程だと理解していただければと思います。

 見どころですか?一つは、それぞれのシーンがより印象的になる衣裳でしょうか。いちばん最後には敦煌の莫高窟(ばっこうくつ)の飛天をイメージした衣装で踊ります。あと、ギタリストの原田和彦さんが音楽監督を務めるのですが、もともとシンセサイザーを用いた音の表現にも注力している方で、今回もシンセサイザーでアラブっぽい音楽が入ってきます。

 シーンごとにまったく違う雰囲気の舞台となりますので、そのへんを楽しんでいただきたいです。今回は群舞も充実させますし、日ごろ親しい阿部碧里さん、蜂須夕子さんと、小島章司先生の舞踊団の後輩である藤井かおるさん、先ごろ舞踊団から独立した神谷真弓さんにも出演してもらいますので、やはり特に踊りを楽しみに見ていただけたらうれしいです。

 舞台を作るのって本当に重労働で、踊りのこととは別に、毎回、アーティストやチケットの手配など、それはもうたいへんな思いをします。でもやめられない。どうしても私は、舞台で踊るのが好きなんです。

 特に作っていく過程が好き。見に来てくれる人がワクワクしてくれるような舞台にしようと、自分自身がワクワクしながら作っていくんです。タブラオにもよく出演させていただきますが、お客さんはどうしても「踊り」を見ることになる。でも、舞台では踊りを含めた「作品」として見ていただけるので、そこが好きなのだと思います。これだけ舞台が好きというのは、やはり小島章司先生のところで多くの舞台を経験させていただいたこともあると思います。

 ふだんも踊っているときは辛いことなども忘れることができます。舞台の上で踊ると、もう自分が違う人生を生きているみたいなんです。

「公演では衣裳も楽しみにしていてください」

スペインに興味を持って進路を変更

 初めてフラメンコを知ったのは、高校時代にテレビで見て。その瞬間には「私が踊るのはこれだ!」って思いました。

 私は一度決めたら行動が早いんです。当時、理系の大学に進学する予定だったのですが、どうしてもスペイン語の勉強をしたくなって、すぐに文系志望に変わりました。それが高校2年のときで、「今からでは無理」と言われたのを、必死で勉強して追いついたんです。そして、晴れて志望大学のスペイン語学科に合格!もともと理系に進んで薬剤師になるつもりだったのですが、いま思うとならなくて良かった。薬の調合って、すごく緻密さが要求されるでしょう?私、性格がアバウトだから(笑)。

 あるとき、友人に誘われて見たフラメンコが小島先生の公演でした。会場で配られるプログラムに「小島章司スペイン舞踊研究所 生徒募集中」とあったのを見て、今がチャンス!と思って迷わず門を叩いたんです。私を公演に誘った友人は、結局は入門しなかった。あとでわかったことですが、今がチャンス!と思って入ったけど、小島先生のところの募集はそのときだけではなかったんですね。焦る必要は全然なかったんです(笑)。

 小島先生のスタジオは西麻布にあるので、場所的にも誘惑が多くて、入って間がないころはよくサボりました。表参道で降りて、友だちとお茶して話し込んでいたら、気がついたら練習の時間を過ぎていたことはしょっちゅうありました。

 大学2年のときに舞踊団に入れてもらったのですが、3年のころからは仕事で使ってもらえるようになりました。4年のとき、就職をどうしようかと迷っているときに、代教の方が一人倒れてしまい、私にやってみないかと声を掛けていただいたのですが、教えることも勉強と引き受けたのが、フラメンコの世界に本格的に足を踏み入れたきっかけだったかもしれません。代教はすごくやりがいがあって、私自身、とても勉強になりました。

クラスは港区飯倉に移転

 教室は今年の夏に、恵比寿から飯倉に移りました。原田和彦さんと草野櫻子さんのスタジオです。私の今のフラメンコとの関わりは、確かに自分が踊ること、特に舞台で踊ることが中心ですが、教えることもちゃんとやっていますよ。

 大切にしていることは、故障しない体作り。そのための姿勢の指導やストレッチなど、レッスンのうち30分くらいはそのことに費やしています。基礎的なことをとても重視しています。

 踊りにおいて、私が特に影響を受けたのはラファエラ・カラスコです。ちょうどスペインに留学したとき、彼女は自分のクラスを始めたばかりでした。ラフィ(ラファエラ・カラスコ)の踊りを自分なりに身につけ、実践している部分が多いかもしれません。発表会は毎年行っていますし、頑張る生徒はいっしょに舞台に立てるようにしています。

 舞台での公演は今後も続けていきたいと思っています。いろいろと事務的なこともわかってきたし、手伝ってくれる人も増えましたしね。今はとにかく今回の公演のことで頭がいっぱいです。フラメンコで表現するシルクロードのエッセンス。ぜひ見にいらしてください。

「最初にスペインに行ったとき、ラ・チナ、アドリアン、ラファエラ・カラスコに師事しました」

 

取材・文 藤戸良彦