―お二人はいつ頃からのお付き合いですか?
浅見 8年ほど前、クルシージョでご一緒したのがきっかけでした。実はそれ以前、まだ私がフラメンコを始めるかどうかの頃に、私の仕事であるヤマハのコンサートのプロデュースで、パンフルート奏者である(岩田)玲子さんのご主人とはお仕事をさせていただいたんです。その時は「奥様はフラメンコの踊り手」という認識しかなかったのですが。
岩田 初めてお会いしてからも、しばらくはそれほどのお付き合いはなかったのですが、3年ほど前から急速に親しくなりましたね。
浅見 東京や広島で同じライブに出演させていただくなど、ここ2年ほどは特に、です。
岩田 浅見さんと知り合った当時、私は自分の中にいろいろと迷いがあったんです。家族もおりますし、このままフラメンコを続けていいのかどうかなど、悩みは尽きませんでした。浅見さんにはメンタル面ですごく助けていただいたと思っています。浅見さんに背中を押してもらうことで、弾けて表舞台に出てきた、という思いです。
浅見 実は親しくなる以前から、玲子さんとは偶然に会うことが多かったんですよ。たとえば、私がバスに乗っていたら彼女がその脇を歩いていたりとか、お茶を飲んでいたらお店の前を彼女が通ったり…。ご縁とはそのようなものなのかも、と思います。今では私たちコンビは、お笑いの「くりぃむしちゅー」みたいとよく言われます(笑)。
―お互い、どのようなところに魅力を感じますか?
岩田 まず人間的に、清々しくてカラッとした度量があるというのが最大の魅力ですね。(浅見)純ちゃんからよくメールをもらうのですが、何気ない言葉の中にも彼女らしさがよく表れています。踊りはシャープで切れがあり、踊り手としても すごく 好きです。
浅見 玲子さんは、踊っているときの“空気感”がすごくきれいな人なんです。それは、居住地が広島ということと人柄によるものだと思うのですが、東京にはいない踊り手ですね。限りなく“街”ではなく“土”の香りがするというか…。私にはできない踊りをする人です。
―岩田さんは東京でのライブ出演も多くなりましたね。
岩田 私の中にある今のフラメンコ、旬のものを伝えるために東京で踊る、という思いです。私自身、この2、3年の間に自分への肯定感が増した気がするのですが、それは、浅見さんをはじめ素晴らしい仲間に出会えたことによると思うんです。私の人生に欠けていた部分を補える場所ができたということは、メンタルな部分ですごく助かっています。
浅見 私も、同じものをめざす仲間がいるから気持ちを高めていける、という感じですね。
岩田 みんなフリーでやっているから、いろんなフラメンコの引き出しがあるんです。1つ投げかけても、5つも6つも返ってくる。すごく贅沢な環境だと思っています。
公演のきっかけ、賭ける思いは?
―そういう環境の中で、今回、それぞれの公演を決意されたわけですね。
浅見 私はずっと「こうできたらいいな」という理想的な実現の仕方を追求していますし、今もそしてこれから先も、それは変わることはありません。リサイタルに大きく背中を押してくれたのは、今回共演のエンリケ“エル・エストレメニョ”です。舞台は自分の気持ち以外にもいろいろな条件・要素がそろわないといいものが作れないという思いがあるので、本当にそういう意味ではまさに、それが今だという思いがあります。
岩田 誰かと何かをするときというのは、本当にタイミングが大事ですからね。私は占いの本によると、今年は良くない年だとか…。でも、神仏の前で踊る時に人間の世俗的なことにこだわるのって、何てバチ当たりで的外れだろうと思い、決めました。
浅見 私はもともと音楽コンサートをプロデュースすることが仕事なので、作る側の立場も出演者としての立場も共に理解できるポジションにいると思います。その意味でも、いろいろな思いが頭をよぎりますね。まずは出演者が気持ちよく板の上に立つこと。それは非常に大切で様々な面に気を配り、スタッフと共に作り上げていかなくてはならない事だと思っています。自分で構成・演出し、プロデュースすることは、またこの先一歩踏み出すための、良い機会だと思っています。
岩田 私は12年前にも千畳閣で公演を行ったのですが、今思えば、この時はボランティアという大義名分があり、そのことにフラメンコを隠れミノにしていたという思いがあります。時間が経ち、自分の裏側に潜むことにも光を当てることができるようになった、そして、人にも光を当てていきたい、というのが今の心境です。
―どのような舞台になりますか?
浅見 ”Agua de julio”は私のひとつの集大成であり、また新たなスタート地点でもあります。フラメンコの踊り以外にも、映像的なもの、そして立体音響なども駆使し、フラメンコファンのみならず、多くの方に楽しんで頂けるコンサートを目指します。今回は港区の財団法人にも特別共催をいただき、普段はフラメンコを見ない人たちに見ていただきたい!この公演を見て、これからフラメンコを応援したくなってくれたらいいなぁ!と思っています。
ありがたいことに、この時期にチケットが残り僅かで完売となります。ご興味のある方は、ぜひお早めに!
岩田 千畳閣は豊臣秀吉が建立した大経堂ですが、その下には平清盛が創建した厳島神社の社殿があります。それぞれの野心のもとにこれらが造られたわけですが、私は、この二人には単に野心だけではなく、その背景として神への信仰という純粋な気持ちがあったと思うのです。
歴史の重みがある、この神秘の島に「スペインの歴史的民俗芸能」であるフラメンコを重ねることにより、出演者にも何かが乗り移り、お客様には厳島の過去と未来への可能性までも聴きとっていただけるとうれしいです。
取材・文 藤戸良彦 |