「ヘレスのブレリア」といえば、大沼由紀さん!最近、ますます注目度アップの大沼さんが、ご自身のヘレス観、フラメンコ観を語ってくださいました。

 

大沼由紀フラメンコスタジオの発表会は
東京・中野ゼロホールで9月7日(土)19時開演。
お問い合わせはこちら

 

 

「ヘレスのコンパスは
自分の呼吸にぴったりくるものでした」


 ●フラメンコとの出会い
 フラメンコと出会う前は、プロのピアニストでした。あるお店で弾いていたときに、私のバンドのほかにもうひとつ、フラメンコのショーが入ったことがあったんです。初めて耳にするフラメンコのリズムに衝撃を受けました。ずっと音楽をやってきたのに、ぜんぜん分からなかったんです、リズムが。
 
 いったい、どうなっているんだろう、と思いましたね。これは面白い!って。もともと体を動かすことは好きだったので、フラメンコを始めました。そのときはあくまでも趣味だったんですよ。仕事は別にありましたから。でも、のめりこむ性格なので、すごく面白くなってきて。先生のお仕事に連れて行っていただいたりもしていました。それでもまだ、自分の意識としては「趣味」でした。

●渡西
 フラメンコをはじめて4年ぐらいたったころ、自分が本当にフラメンコが好きなのかどうか確かめたくなったんです。それで、スペインへ渡りました。まわりからはバカだといわれましたね(笑)。

 そのときはもう31歳で、自分の仕事もちゃんとあって…。それを全て放り出していくわけですからね。帰ってきてからどうするの、とも言われました。でも、行きたいから行ってみる、ただそれだけでした。
 
 最初はマドリッドに行きました。そこでぜんぜんできない自分を実感しましたね。踊りの基礎を徹底的にやらないとダメだな、と思いました。その後、セビージャへ行ったときも同じことを考えていました。自分の感じたことを表現するためには媒体がないとできないんですよ。それを強く思い知らされました。
 
 そんなとき、ヘレスへ遊びにいったんです。そこにあったコンパスは自分の呼吸にぴったりくるものでした。わー、これだ!!と思いましたね。ビックリしました。とても自然に呼吸ができたんですよ。でも、そのときはまだセビージャで勉強したいことがありましたから、ヘレスに移り住むにはいたりませんでした。

セビージャでは舞踊的な部分を必死で勉強していましたね。自分をとことん追い込んで。レッスンと自主練に明け暮れた毎日でした。そんな生活を約1年続け、その後ヘレスへ移りました。

「ヘレスでは
生活自体がフラメンコ」

●ヘレス生活
 ヘレスではブレリアばかりの毎日でした。ヘレスでは友達が集まると、フィエスタになるんです。そこで、みんなと一体化できない自分がいました。それまで必死にセビージャで踊りの練習をしてきましたが、そこで得たテクニックをいったん全て忘れてみようと思いました。パルマ、カンテ、ギター、踊り全てが一体となること、それが何より大切なことだと気づきました。そうしたらフラメンコがすごく好きになったんです。
 
 ヘレスでは生活自体がフラメンコなんですよ。レッスンに通う、というよりフラメンコを感じに行くといったかんじでしたね。とにかく面白くて、何がどうなっているのか知りたくて、いつでもどこでも観察者になっていました。日本に帰って自分は踊り手としてやっていく、という思いはいつのまにかなくなっていました。完全に生活者でしたね。
 
 ですから、ときどき、今の自分の状況を見て、とても不思議な気がしてしまうんですよ(笑)。

●ヘレスの子供たち
 アナ・マリア・ロペスのアカデミアで子供たちと一緒にレッスンをしていたこともあります。当時は、鏡もない、石の床の上でレッスンしていました。みんな同じ振りを習うんですが、ひとりずつ踊ると、全員違う踊りになるんです。

 歌が入れば、その歌に合わせて、自然に振りが変わる。それでもみんなちゃんと合っているんですよ。なんで?と思いましたね。だって、ついさっきまで、このマルカールを3コンパスやって次はジャマーダで…、なんてやっていたのに、歌が入ればそういうことは全く関係なくなってしまうんです。子供たちはみんな、歌に合わせて踊ることができます。振りの丸暗記ではないから、そういうことが自然にできるんですよね。

●ペーニャ
 ヘレスにはペーニャがたくさんあり、身近に歌が聴ける環境が整っています。それも、すごくいい歌が。ペーニャで聴く歌は、大きな劇場で聴くのとは別の味があるんですよ。そこでは、歌う人と観客、という関係ではないんです。みんな同じ、という感じを強く受けます。みんなが一緒に呼吸をしている、と言えばいいのでしょうか。
 
 ヘレスの人は、みんなフラメンコが好きで、自分たちがフラメンコを支えてきたという自負があるんですよ。みんな絶対的に歌が好きなんです。だからこそ、これほどまでにペーニャが発達しているんでしょうね。

●女ひとりのヘレス滞在
 ひとりで長くヘレスに滞在していると、しんどいこともありますね。一見オープンに見える彼らは、実はとても閉鎖的です。「フラメンコは自分たちにしかできない」という意識が強いんでしょうね。もちろん、面と向かってそういうことは言いませんが、長く住んでいると耳に入ってくるものです。
 
 彼らは生活の基本が家族ですから、女の人がひとりでいると、不気味なヤツ、みたいに思われたりしますよ(笑)。なんで結婚してないの?とか、どうしてひとりなの?というふうに…。
 
 国籍はさまざまですが、むこうで仲良くなった独身女性たちとは、よくそのことでグチってますよ。ほっといてよねぇ!なんて言いながら(笑)。彼らは家族をもっていることに、非常に価値を見い出すんです。家族をもってこそ一人前の人間、と考えているように感じますね。

「ブレリアクラスでは
"単語"を教えているつもり」


●ブレリアクラス
 スペインから帰国したばかりのころ、ヘレスのスタイルのブレリアを教えてほしいと頼まれました。ヘレスの子供たちが習っているようなことを教えてもらいたい、と言われたんです。それで、手探りで教え始めました。ブレリアクラスはそのころから現在までずっと続いているんですよ。
 
 ブレリアクラスは一番難しいクラス。習った振りを必死で練習する、というのではないんです。私は単語を教えていると思っています。教えられた単語を自分の中にしまっていくことが大切なんですよ。そうでなければ、文章がしゃべれない。

 もちろんクラスでは、見本の文章も教えています。でも、それを丸暗記して終わるのではなく、年月を経て自分のセンスでそれを感じることができるようになって初めて自由になれる。そう思っています。

 自由になるために不自由なことをたくさんしていかなければならない場合もありますね。そして、私が言うことだけを聞くのではなく、自分で模索していくことが大切です。歌を聴いて、パルマがうてて…。コンパスを自由に感じ、その自分が感じたコンパスを動きで表現するんです。
 
 振りだけを見ることは、とても危険だと思いますね。その振りの中に流れるコンパスを理解していないと、無意味で不自然な動きになってしまいます。とってつけたような…。
 
 生徒にもそういうことを求めてしまうんですよ。だから「教えてください」という受け身の姿勢では、無理が出てきますね。自分たちは本当にそのコンパスが好きなのか、ということを考えていかないと。そして、本当に好きなら、一緒にやっていこうよ、ということになるわけです。そこが共通していないと、私とやっていくのはしんどくなってしまうと思いますね。

 歌を感じて、歌のいい瞬間をぱっととらえる、呼吸するように自然に踊る。そこに少しでも近づけるようにレッスンしています。
 
 クラスでは、歌い手さんに来ていただくこともありますが、主にCDを使っています。CDで踊るというのは、歌い手さんが付いて踊るより難しいんですよ。みんなで輪になってCDを聴いて、心をぎゅっとつかまれる瞬間があったら、そこでその人に輪の内側に一歩出て、踊ってもらいます。こういう練習を積み重ねていくと、歌い手さんがいらしたときに、より自由に踊れるようになるんです。
 
 こういうことを教えるのは、本当に難しいですね。試行錯誤しながら教えていますよ。いろんなことを試しています。
 
 ブレリアクラスは踊り歴、フラメンコ歴にかかわらず、みんな同じクラスでレッスンします。お互いを見ることがまた、いい刺激になっていくのです。
 
 私にとっては、このスタジオが日本においてのフラメンコ環境なんですよ。ここに来たら、日本にいてもフラメンコ的に呼吸ができる、そういう場にしたいですね。それをみんなで作り上げたいと思っています。

「無の状態で踊っているときが
いちばんいい状態」

●舞踊家としての自分
 好きだな、と思うことをやるしかないですね。自分の中のイメージを、体で実現させるために踊っています。踊りを通して自由になりたいです。

私にとっては、「ナチュラルな感じ」というのがもっとも価値あることなんです。私自身が私の呼吸で踊る、それを追及していきたいです。

みんなと一緒に呼吸して、何も考えない無の状態で踊っているときが一番いい状態ですね。そういう状態のときに自然に出たものは、必ずいい結果となります。しかも、自分でそれを覚えていないんです。それほど自然、ということですね。それこそがフラメンコだと思うんですよ。

そのためには、感じたらすぐに反応できるような訓練が必要ですね。そういう練習は、たくさんしていると思います。

●指導者としての自分
 かなり厳しいと思います(笑)。自分が強く求めるものを他人にも求めてしまうんですよ。私の教室に来てくれた人は「私と一緒にフラメンコをやりたいと思ってくれた人」というふうに解釈するんです。

教えておしまい、ということではないんです。もっと先を求めてしまうんですね。でないと、相手にも失礼だと思うんです。そして何より、そうじゃなきゃ、つまらない!

●今後について
 今はタブラオのお仕事が多いのですが、いつか自分の舞台をやれたらいいなぁと思っています。でも、それにはとても時間がかかるんですよ。やりたい気持ちはすごく強いのですが、いつになるかは分かりません。

 一体感のあるステージをやりたいですね。それはどうやったらできるのかなぁ、とよく考えます。

●9月の発表会
 これは、みんながやるコンサートです。受け身では絶対だめっ!まずバックの方を惹きつけて、一体となって、さらに舞台から観客に向けて発信できるものでなくては。お金をいただいているからには、それだけのものをやらなくてはならない。生徒にはいつもそう言ってます。

そこに到達できるかどうかは分かりませんが、とにかく後悔のないようにやりたいと思っています。ですから、今はみんな一丸となって、私の罵声に耐えながらお稽古しています。どんなにつたなくても、「フラメンコ」をやらなくてはだめですから。とにかく、熱のあるものにしたいですね。その熱は、必ず伝わると信じているんです。

●好きなアーティスト
難しい・・・たくさんいすぎて、答えられない
●好きなヌメロ
全部好き。今の自分がもっとも自然に踊れるのはアレグリアス。ブレリアはもちろん欠かせない
●趣味
フラメンコと似たような感性を感じられるアーティスの音楽を聴くこと。ビョーク大好き!


取材・文 轟 志津香