第45回

片岡由起子さん(舞踊家)

  東京・小岩にスタジオを開いて 15 年。自ら「ポンポン喋る江戸っ子気質」と話す片岡由起子さんだが、その指導ぶりに惹かれて門戸を叩く経験者も多いと聞く。会社勤めの管理職から転身、「自らと向き合いながら」の年月を経て、間もなく節目の発表会を開催する片岡さんにお話をうかがった。


フィエスタ・フラメンカ2004
第10回スタジオ・レブローテ発表会は
6月5日(土)17時30分から
千葉/市川市文化会館で
詳細・お問い合わせはこちら


 スタジオを持って、今年で15年。発表会は10回目になります。11月13日にはエルフラメンコでリサイタル的なライブを行うのですが、今回の発表会は15周年記念行事の一環と位置づけ、カルチャーの希望者も合わせて74人が出演します。

 出演は特に経験2、3年から5年くらいの生徒が中心です。フラメンコを始めてこれくらいの時期というのは、それなりにキャリアも積んできて、最も意欲的に取り組める時。発表会というのは、やる気のある人にとっては、すごくいい機会だと思います。ふだんクラスで学ぶことの何倍、何十倍ものことを実践的に学べるわけで、そういう場というのはどんどん利用してほしいですね。設立の頃からの人や リターン組みもけっこういますので 生徒といっても仲間のような嬉しさがあります。

 もちろん強制ではないのですが、これまでも発表会をきっかけに大きく成長した生徒は大勢います。お客様の前で舞台に立ち、照明を浴びて練習の成果を出し尽くすわけですからね、変わらない方がおかしい。人間、きっかけが必要なんですよ。

 15周年といっても、特にそのことを強調するわけではなく、私自身、奇を衒ったことは好きではないので、日常踊っているフラメンコとあまりかけ離れたことはしません。休憩をはさんで約2時間半。私も好きなタラントを、新しいアレンジで踊ります。

「大切なのは想像力と創造力」

 日頃の指導としては、私は入門の時からバシバシやりますし、ガンガン言いますよ。でも、悪気はないです(笑)。人からは「面倒見がいい」なんて言われますしね。特にそういう宣伝をしているわけではないのですが、訪ねて来る人はけっこう経験者の人が多いですね。

 とはいっても、入門クラスも増やしたくらいですから、初めての人も大勢います。場所柄、沿線の人が多いですが、中には埼玉県の北部や千葉県の君津、茨城県の土浦あたりから通っている生徒もいます。
発表会は自分を磨く場として多いに生かしてほしいですね

 上達する生徒ですか?そうですね、やはり教室に来た時だけフラメンコと接する人の場合はなかなか上達しませんね。バイレだけでなくトータルにフラメンコを捉えないとね。ひと昔前の“フラメンコ命”みたいな人は少なくなったように思いますが。今はCD、ビデオ たくさんのコンサート、いくらでもありその気になればかなり自力で勉強できる時代です。追求する楽しさを知っている人に伸びる可能性があるのでは?私自身、朝 ベッドの中でひらめくアイデア(振付はもちろん、難しさを克服する練習方法など)を急いでメモし 毎日楽しんでいますよ。

 あと、フラメンコに大切なものは運動神経云々ではなくて“耳”です。音を聴き分けるということがとても重要だと思います。それからもちろん スペインを広く意識すること、多くの空気を吸い、言葉を聴き、感じて、ああ・・・することいっぱい!ちなみに、7月にはスペインに行きます。


自分が踊ることはもちろん好きなのですが、同時に、その過程も好き。もともとクリエイティブなことが好き、というのもあるかもしれません。
 あとは想像力。今はできなくても「自分はこうなりたい!」というイメージを持ち続けることが大切です。それに近づきたい気持ちが上達につながるのですから。フラメンコを1度も見たことないなんて聞くとがっかりしますね。また、カウントの体操にならないよう、三位一体の絵を夢見ることでしょう。振りを習ったらただ覚えようとするだけではなく、できないのはなぜか、できるためにはどういうことをすればいいか、ということを編み出すこと。こちらは創造力ですね。練習方法を考えることってすごく楽しいと思います。

「腰の据わったフラメンコが好き」

 私は小さい頃からオルガンを教会でも弾いていたし、ピアノもやり、 音楽好きでした。大学時代、ギターアンサンブルのクラブに入ってファースト(メロディー)パートを担当していたんです。クラブ内にはフラメンコギターの部門もあったのですが、なぜか女性は入れなくて(笑)。でも、フラメンコは好きでしたから、当時からアフィシオナーダ(愛好家)としてよく聴いていましたので曲種やリズムについて だいたい知っていました。

 その後、会社勤めをして数年たった頃に「何か身体を動かしたくて とりあえず半年くらい」と思ってフラメンコの踊りを習い始めました。それがいつのまにか はまってしまったということです。ただ、プロを目指していたわけではないけれど 内容的にはそれに近くありたいとはいつも思っていましたね。それなりに勉強はしていたんですよ。 

 一時期、踊ることをあきらめたこともありました。先天的に股関節が悪くその影響で、踊るどころか歩くことさえ辛い時期がありました。でも不思議とフラメンコをあきらめてはいなかったようです。身体を休めたり 少しずつ筋肉をつけたりの試行錯誤です。会社を辞めて今のこのスタジオを開いたのが15年前。小岩にはフラメンコを自習する場も教えるところもなかったですからね。とにかく必要だ!との一念です。

 当時、まだフラメンコが今ほど盛んでない時に会社の要職を捨ててスタジオを開くというのですから、ずいぶん周りの人たちには驚かれました。今となっては「先見の明があった」なんて言われますけどね(笑)。もちろん、自分で運営していくのは大変なことですが、不思議なことに会社勤めの頃よりはストレスは溜まりません。股関節については 今でも時々、痛むこともありますが、これも向き合っていかざるを得ないことですから。でも バタを蹴り回せているので まだ今のところは大丈夫でしょう(笑)。
好きなアーティストは いろいろいますが 古くはカルメン・モーラ。まさに「腰の据わったフラメンコ」だと思っています。男性では、昔のビデオでマリオ・マヤの踊りにハッとさせられました。偶然にも、この二人は夫婦だったことに気づきましたが…

 私自身は、踊りとしては オーソドックスな、腰の据わったフラメンコが好き。ただ、もちろん教える上においては新しいものも採り入れています。特にリズムやギターでは 新しいものを面白いと感じています。フラメンコでいちばん楽しいのは、生でギターやカンテの人たちといっしょに合わせて作っていくところだと思うんです。お互いに探りながら作っていく、そういう緊張感がたまらなく好きで、だからいつまでも続けられるんだと思います。ひとりでも多くの生徒にもそのことを伝えたいです。そのためにも、発表会のほかにイベントやライブの機会を数多く作り、経験できるようにしています。

取材・文 藤戸良彦