スペインで現地の舞踊団に所属し、スペインおよびヨーロッパ各国で活躍された岡本倫子さん。帰国後は自ら舞踊団を結成し、後進の指導にも精力的にあたっておられます。9月に「Del Amor de EspañaY」公演を控えた岡本さんに、フラメンコとの出会いから、自身の指導論、公演での抱負に至るまで、興味深いお話をうかがいました。

 

岡本倫子さんのプロフィールはこちら

 

偶然出会ったフラメンコを
どうしても習いたくて


 
大学時代、お芝居がやりたくてミュージカル研究会に入り、青年座の養成所に通っていたんです。そこにモダン・バレエのカリキュラムがあって、その先生のスタジオへ個人的に習いに行きました。

 そうしたら、たまたまモダン・バレエのレッスンのあとにフラメンコのレッスンが入っていたんです。それを見て感激しましてね。すぐ先生に、教えてくださいとお願いしましたが「今は初心者は教えていない」と言われて。それが悔しくて、別の教室を探しました。そして小松原庸子先生のところへ通うようになったんです。

 2年ほどレッスンに通っているうちに、やはり本場でやってみたくなり渡西しました。絶対プロになってやろう、という気持ちはなかったですね。当初は3ヵ月くらい滞在して帰国するつもりでした。マドリッドへ行って、フラメンコとクラシコ・エスパニョールのレッスンを受けていたんです。

 3ヵ月が経ち、日本へ戻ろうとしたとき、たまたま舞踊団のオーディションがあったんです。それに受かって、結局4年間もスペインに滞在する結果となりました。

 帰国して2年後、舞踊団を設立したんです。

クラスでは振付けと基礎を
半々に教えています

 
 自分の教室を持つようになったのは、今から3年くらい前です。それまではいろいろなスタジオを借りて教えていました。ジプシー生活ですね(笑)。

 うちの教室には、クラシコ・エスパニョールのテクニック的なことを教えるクラスもありますが、ほとんどのクラスがフラメンコです。フラメンコのみをやっている方が大半です。たまに他のお教室に通っていらして、クラシコだけを習いに来る方もいますけれどね。

 私がスペインで教わったクラシコ・エスパニョールは、バレエまではいかないにせよ、比較的きっちり踊りの形が決められていたんです。 

 フラメンコだと、絶対にこの形でなくてはならない、というものがありませんよね。そうすると、自分なりに踊ればいいんだと勘違いして、体ができないうちに自己流で踊ってしまう人がいます。でも、基礎をマスターして初めて、自由な動きができるようになるわけで、この点は無視できないと思うんです。そういう考えから、私はクラスでは振付けと基礎を半々に教えています。

人が観て感じるフラメンコを踊るには
すごく冷静な部分が必要です

 バレエのように決められたポジションがないぶん、フラメンコを教えるのは難しいです。それぞれの人のとらえ方の問題になってきますからね。例えば、他の教室で教わってきた方が、うちへいらした時に「それは違うのよ」とは言えません。「私はこうやるのよ」と言うよりほかないんです。踊りの形は人それぞれですから。

 基本的な技術を教える際に、クラシコの要素はとても意味があると思うんです。例えば、カスタネットの打ち方、腕の下ろし方、回り方、足のポジションなどですね。私自身もスペインでそういう教え方をされてきて、よかったと思っているので、生徒にもそういう教え方をしたいと思っています。

 もうひとつ、フラメンコで大切なのは「人に伝える」ということだと思うんです。踊っている自分がいくらフラメンコを感じていても、それを見ている人たちに伝えるのはとても難しい。よくフラメンコは「内面の踊りだ」と言われますけど、内面性ばかりを目指してしまうと、ひとりよがりの踊りになってしまう可能性があると思うんです。人に観て、感じていただくためには、本当はすごく冷静な部分が必要なんだと自分に言い聞かせています。見せることに対してプロフェッショナルであることは、踊り手としてとても大切なことではないでしょうか。

 もちろん、はじめはそのようにできなくても当然です。その点を勘違いしないでフラメンコに取り組んでいくことが、私は大切だと思います。

お客様がそれまでに感じたフラメンコとは
別のフラメンコに出会えるような舞台づくりを目指したい

 9月の東京芸術劇場中ホールでの公演は、二部構成になっています。第一部は「アンダルシィ」。アンダルシア風という意味で、アラブの音楽とフラメンコを融合させた作品です。ストーリーがあるわけではなく、音と踊りを観ていただく作品なんですよ。第一部全体を通して、アンダルシアの幻想的でエキゾチックな世界が表現できれば、と思っています。

9月の公演「Del Amor de EspanaY」の詳細はこちら  ストーリー性の高いものをやったこともありましたが、踊りだけで表現するとなるとなかなか難しいんですよ。説明的になってしまいがちですので。ですから、戯曲っぽいものを舞台にする場合でも踊りの作品の場合は、その「イメージ」を伝えることに重点を置いた方がいいと思います。

 毎年行っているこの劇場公演は、自分が観たいな、と思うものを形にしているんです。舞台作品としてトータルで質の高いものにするためにはどうしたらいいのか、常にそのことを考えています。

 第二部はフラメンコのナンバーを踊ります。タブラオとは違う劇場の空間で、どのようにフラメンコを見せるかが大きなポイントですね。

 劇場のスペースでは、「素」で踊るだけでは厳しいものがあります。お客様との距離が離れているときには、お互いのパワーがより近づかないと、いいものは生まれません。劇場でお客様に伝えるためには、タブラオで踊るときとは別のパワーが必要なんです。うまく伝わったときは、とても楽しいし充実感がありますね。

 劇場では、照明、音響、装置など、舞台効果が増えるので、それをうまく活用して、お客様がそれまでに感じたフラメンコとは別のフラメンコに出会えるような舞台づくりを目指しています。

お稽古しながら音を創っていく過程が
とても楽しい

 ギターと唄はスペイン人にお願いしています。最近はメンバーが固定されていて、早い時期からお稽古に付き合ってくれるんですよ。お稽古しながら音を創ってくれます。その過程がとても楽しいですね。贅沢な時間だと思います。

 振付け、構成、演出は、ミゲル・アンヘルに頼んでいます。10年以上も一緒に舞台を創ってきた彼のことを、私は全面的に信頼しているんです。彼の存在なしには、これまでの舞踊団の舞台創りはあり得なかったと言っても過言ではありません。

 彼の作品は、創る段階ですでに照明のイメージまでもが決まっていて、その効果をねらった振付けになっています。劇場作品の振付け、構成、演出はそういった意味で、とても緻密なものなんですよ。

 今回もミゲル・アンヘルをはじめ、最高のミュージシャンたちの才能とパワーに支えられ、素晴らしい舞台が出来上がると信じています。皆さん、ぜひ観にいらしてください。


取材・文 轟 志津香