高田馬場、目黒のスタジオに教室を持つ蘇谷(そや)昭彦さん。日本では数少ない「男性のフラメンコ舞踊指導者」だが、独自の指導法と明るくオープンな教室の雰囲気が好評で、着実に生徒が増えている。10月12日には発表会を行うが、「月謝や発表会にかかる費用は、できるかぎり安くする努力をし、公表している」(蘇谷さん)など、既成概念にとらわれない取り組みが随所にうかがえる。「フラメンコを教えることはサービス業」と言い切る蘇谷さんに、お話を聞いた。


2003蘇谷昭彦
フラメンコ教室発表会は
10月12日(日)12時45分から
新宿・エルフラメンコで
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 僕が指導において最も大切にしていることは、「理解したうえで訓練する」ということです。一つの動きについて、なぜこうなのか、なぜ別の動きがダメなのかを説明し、生徒が理解し、納得したうえでレッスンを行います。

 初めてフラメンコを学ぶ人にとっては、先生の動きを見て、その通りに体を動かしなさいと言われても、できないですよね。どこがどう違うのかを具体的に指摘してあげないと、本人は間違ったまま、わからないまま先に進んでしまうわけで、これでは何年やっても同じ。本人が「こういうことだったのか」と気づいて、初めて訓練が身に付くものだと思うんです。

 例えば、肩が上がってしまう場合。両手を上に上げると、初心者の場合、まずほとんどの人は肩も同時に上がってしまいます。では、なぜ肩が上がってはいけないのか、肩が上がらないためにはどうすればいいか。僕はそこまで教えることが「指導」だと思っています。

 実はこれは、僕自身がいろいろな指導者に学んできて、スペインでアンヘル・トーレスという先生に教わって初めて気づいたことなんです。すごく厳しい指導だったけれど、それまでは、そういう教わり方はしていなかったですからね。

 スペインの踊り手、特にヒターノたちは、たしかに自己流的踊りが多い。でも、彼らは生まれたときからフラメンコに接する環境にいるわけで、それでもサマになるんですよ。でも、日本人の場合は違う。僕は、日本人がフラメンコを始めるときは、あくまでも真似ることから始めるのがいいと思うんです。そして、本人が考えながら練習することが大切だと。

フラメンコを科学する、独自の"蘇谷メソッド"

 最近はスポーツにおいても科学的なトレーニング法が開発されていますが、フラメンコにもそのような練習法があっていいんじゃないかと思います。より科学的な練習方法が開発されれば、ひょっとしたらフラメンコの踊りはもっと短期間で習得できるんじゃないかとさえ思っているんです。

 たとえば、僕のレッスンではクラシックバレエのようなバーレッスンや静的柔軟性を高めるための訓練はあまりやりません。そのかわり、フラメンコにより大切な動的柔軟性を高める訓練を重視しています。


モダンダンスからフラメンコに転向。「新宿のエル・フラメンコで偶然、トマス・デ・マドリーという男性舞踊手の踊りを見て。もうこれしかないって感じでした」

 バレエの訓練は役に立つこともありますけど、もし週に1時間しかレッスンしない人なら、もっとフラメンコに直結した訓練の方がいいし、反対に週に何時間もレッスンを受けるような人ならば、必要と思ったらバレエの基礎クラスに通うほうがいい。

 野球をやりたければ野球をやればいいしサッカーやりたいならサッカーをやればいい。フラメンコ舞踊をやりたいならそれに直結した訓練を、まずはするべきです。


「好きなアーティストはエル・グイート、カマロン、ラ・スーシー。ヌメロはそれぞれ好きですが、あえて挙げればアレグリアスかな」
 フラメンコのリズム感、コンパス感については、やはり習得には時間がかかりますから、まず同じテンポで手拍子を叩いたり、足を打ったりできるようにして、次にアクセントが入るようにして、次に裏打ちができるようにして、そこからがスタートだと思います。

 人を唸らせるようなエスコビージャができるようになるには、ちゃんとした呼吸法が身につかないとならないですし、そう、息を吸ったり吐いたりとめたりするタイミングですね。これは、すでにスポーツの分野ではかなり重要視されていますが、フラメンコ舞踊でもり大いに研究するべきだと思います。僕がこれについて語り始めると一晩中でもかかりそうですので、やめておきます(笑)。

 要するに、僕が教えているのはフラメンコの「踊るための理論」なんです。

 おそらく多くの先生方が、今までに同じことを別の言葉で一生懸命生徒に伝えようとしてきたと思います。

 でも、もっとわかりやすく伝えるには、まず自分がやってみせて、そのうえでさらに具体的に単純に説明すれば上達が早いはず、と考えた結果のことなんです。

指導に関する"商品開発"に努力
 
 フラメンコの指導歴としては約10年になります。はじめのうちは、個人レッスンやカルチャーセンターでのレッスンが中心でしたが、高田馬場と目黒で教室を持って教え出したのは99年からです。

 よく「男性が女性に踊りを教えるのって、どうなの?」と聞かれますけど、5年くらい研究を続けて、自分で合格点を出した成果ですからね。その点は問題ないです。現に、いま教えている生徒は9割が女性です。教室に見学に来て、僕の指導方針について納得した上で入った人たちです。自分でいうのも変ですけど、クラスの雰囲気はとてもいいと思いますよ。僕はすべてオープンにしているし、とても明るいです。

 僕は、フラメンコの踊りの指導というのは、一種のサービス業だと考えているんですよ。お金をいただいて提供するサービスが商品で、僕の商品はレッスンです。だから、それをより良いものにしようといつも考えています。

 別に、特別変わったことを教えているわけではありません。ただ、教え方、説明のしかたの視点をちょっと変えている、という感じかな。

 今の僕は、舞踊家というより指導者に徹しています。また自分の踊りの活動をやりたくなる時が来ると思いますが、今は教えることにやりがいを感じています。

自分のフラメンコを深めていきたい

 発表会は今回で3回目です。僕も当日まではいろいろと細かいことを注意しますが、本番では何も言いません。たとえ失敗しても、それが結果ですからね。ただ、人数が多いだけに、舞台の交代時がスムーズに行くように気をつけます。それくらいかな。

 フラメンコには人を感動させる、それこそ涙を誘うほどの不思議な力があると思うんです。それは人間の生き様に関わってくるもの。若くて技術を備えていればいいというものではなく、年齢が高くても、太っていたり足が短くても、そういうことを超えた魅力を出すことができる。

 フラメンコには日本の「空手」や「柔道」「剣道」に通じるものがあり、僕自身、「フラメンコ道」といった気持ちで接しています。フラメンコを初めて約20年。改めてフラメンコの奥の深さに驚いていますが、これからも自分のフラメンコを追及していきたいです。
「男振り特別クラスはオープンクラスとしてやっています。入門が終ったくらいの方なら大丈夫」

 余談ですが、僕の教室の名称は「蘇谷昭彦フラメンコ舞踊教室」ですが長いので「蘇谷昭彦フラメンコ教室」のほうがいいのではないかと言われたことがありました。

 でも僕にとってフラメンコは生き方というか人生そのものなので、そんな大それたことを教えるわけにはいかないと、ここはフラメンコ舞踊の教室ですよ、という意味があるんです。自分で言うのもなんですが、ちょっと謙虚でしょ。


取材・文 藤戸良彦