| 「TAKETORI」は以前に、95・96年と2年続けて新宿ルミネホールで上演されました。演出家の平山一夫先生と懇意にさせていただいていたのが、きっかけでした。
演じるにあたっては、かぐや姫という"人間ではない女性"を果たしてフラメンコで表現できるか、ということにずいぶん悩みました。でも、この物語の中にあるテーマは「自分とは何か」という点にあり、かぐや姫が人間の世界に別れを告げるまでの迷いや苦しみ、そして最後の決断…といったことの表現を突き詰めていくと、私の好きな踊り、ソレアにおいてのそれと通じるものがあるということに気がついたのです。また、「自分とは何か」ということの悩みや苦しみは、まさに私自身が、なぜフラメンコを求めているのか、という日ごろの思いと同じだということも分かりました。
私の場合、かぐや姫を踊る衣裳はバタ・デ・コーラにしました。不思議なもので、フラメンコの衣裳を着ているのに、その時ほど自分が日本人であることを再認識したことはなかったです。まるで着物を着ているような感じ。なぜ自分はフラメンコを好きなのか、という疑問がずっと自分の中にあったのですけれど、かぐや姫を演じることで、その疑問が解けていくような感じもしました。
リズムでフラメンコを表現したい
実は平山一夫先生は、去年の7月に亡くなったのですが、今年の「TAKETORI」は、その追悼公演でもあるんです。平山先生の演出と私の求めているフラメンコが時として一致せず、色々な葛藤がありましたが、お互いの意見をぶつけていくことによって、いいものが生まれたと思います。演出に関してもずいぶん勉強させていただきました。何とかご恩返ししたいという気持ちから、今回、私自身は踊らずに、演出に徹して全体を見ようと決断したのです。
平山先生の時は、お芝居も取り入れた、創作された「TAKETORI」でしたが、私はストーリーにおいては皆さんがご存じのままにし、踊りの要素を全面に出したものにしたいと考えています。最も大切にしているのはリズムですね。場面場面で、フラメンコが持つ多様なリズムを表現し、客席の方も一緒になってのれるようなステージが理想です。
クリスマスの日の上演でもあり、華やかな、どこでも見たことのないような、心にしみるステージにしたいと思っています。
学院の特色、「本科」での指導について
今年12月で、アルテフラメンコは21周年を迎えました。私自身が始めた「沙羅塾」が前身になりますが、今はフラメンコを趣味で楽しむための「専科」と、プロを養成する「本科」の2つのコースを設けています。
本科の方は、奥が深いフラメンコを学ぶにあたり敢えて3年という期限を設け、そのための教え方を実践しています。ですから、やることは意外とシンプルなのですが、とても内容が濃いのです。学ぶ人にとって、3年という期限付きの目標を持って自分と本気で向き合うというのは、とても貴重な体験。私たちにとっても、3年の時間の中でいかに大切な事柄を伝えて肉体化してもらうかという作業は、たいへん勉強になります。
今まではじっくり育てる、という感じだったのですが、今後はもっとスピードアップしていきたいです。生徒にもいろんなタイプがありますよね。好奇心の強い人や、もともと依存心の強い人とか、自立心のある人とか。やはり踊りが好きで前向きな人でないと苦労すると思います。たくさんのチャンスを掴む場はあるけれど、それにチャレンジして、自らのものにしていくのは自分ですから。
| 自分自身のちょっとした工夫によっても違ってきます。そして、「自分がフラメンコに何を求めているか」ということを本気で考えてほしい。そうやって取り組んでいる人というのは、2年目の後期以降、飛躍的に伸びますね。そのころには課題も増え、3年目には自主課題に取り組んでもらいます。 |

「この作品を『TAKETORI』の生みの親である演出家の平山一夫先生と、踊りの師、ラウール氏、そして亡き私の両親と板坂の父に捧げたいと思います」(沙羅さん) |
フラメンコは唄、ギター、踊りの三位一体と言われますが、その中でも常に踊りの人がリーダーになることが要求されますね。踊りが中心になって、唄とギターの人を引っ張り、ひとつのものを作り上げていかなければならない場面がたくさんあります。そのためには、踊りの技術だけではなく、メンタルな部分も指導していかなければならないと思っています。
フラメンコのメンタルな部分を指導できる人を
送り出したい
これは本科で、ということではありませんけれど、私は「代教」システムについても積極的に取り入れています。これは私自身が、最初の師である福岡慶子先生に学んだことでもあり、今のアルテフラメンコの基礎となった指導法です。
| 代教という立場を通して、人に教える、物事を伝えることのすばらしさ、大切さを学んでほしい。フラメンコに出会う喜びを自分の体と言葉で正確に伝えることで、自分自身も成長することになりますから。スペイン人なんて、もう体中で伝えてくれますからね(笑)。 |
今年、かぐや姫を演じるのは沙羅さんの長女、鋤柄 葵さん
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いま、日本にはフラメンコを上手に踊る人はたくさんいます。ただ、技術と同時にメンタルな部分も重視した、そういう指導者を私は大勢送り出したいと思っているのです。プロの世界にも、もちろん社会生活の色々な場面にもです。
今回の「TAKETORI」で私が演出に徹するのも、多くの若い世代を外に送り出したいという思いがあるから。フラメンコと真摯に向かい合うことによって、自らの肉体や音楽性、リズム感の優れた面と出会い、どんどん新たな課題に挑戦していってほしい。フラメンコの中に見い出したものを掴んでほしいと願っています。
取材・文 藤戸良彦
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