この映画の原題は「When the Road Bends」。まっすぐな道がないときは曲がった道を歩むしかない、という意味で、私が好きな言葉でもあります。
ロマの人たちはずっと、社会からまっすぐな道を与えられてこなかった。今も多くの偏見を持たれ、子供たちは満足な教育を受けることができない。そんな境遇の中でも彼らは、たとえまっすぐの道ではなくても、頑張って歩み続け、しっかりとそれぞれのゴールに到達しています。人々のアイデンティティが問われる今日、私はロマの人たちの生き様や強い生命力からこそ、学ぶべきことがたくさんあると思うんです。原題は、そうした敬意を込めて付けました。「人間の魂が運命を吹き飛ばす勝利の歴史」−私は、ロマの歴史とはそういうものだと考えています。
この映画を通じて私は、すばらしいアーティストたちに出会うことができました。自分たちのコンサートを映像に収めることに積極的だった彼らも、個人的な生活を明らかにすることにはためらいがあったようですが、それでもスペイン、ルーマニア、マケドニア、インドと、アーティストたちの家を訪ね、家族とも一緒に過ごし、映像に収めることができました。彼らがどれほど家族や友人を愛しているか。故郷での映像は、そんな彼らの生きる姿を、ステージとは異なる側面から理解していただけるかと思います。
意外だったのは、それぞれのアーティスト同士、みな初対面だったのですが、打ち解けるのにそれほど時間を要しないと思っていたところ、そうでもなかったこと。やはり同じロマ同士でも、住む所や環境が違えば、そう簡単に打ち解けることはできないですようです。しかし、そんな彼らが次第に打ち解けるきっかけとなったのは、やはり音楽を通じてでした。楽屋でもホテルでも朝の3時頃まで皆で演奏をしたり歌ったり。彼らのエネルギーを再認識することにもなりました。
特にインドとスペインのアーティストたちは気が合ったようです。映画の中にも彼らのコラボレーションによるステージの様子が収められていますが、音楽的にも通じるところが多かったのかもしれません。彼らはステージだけではなく、移動のバスの中でもホテルでも、一緒にいることが多かったですね。お互い、(英国人の)私には理解できない英語で会話していました(笑)。驚いたことに、フラメンコのブレリアのあの複雑なリズムを、インドのミュージシャンたちは瞬時に数えて理解し、ものの見事に自分たちのリズムにしてしまっていました。彼らに言わせると、「同じ」なのだそうです。
特筆すべきエピソードがあるんです。ツアーが終わってトロントからニューヨーク経由で帰国しようとしたルーマニアのアーティストたちの米国入国に待ったがかかった。いくら自分たちがミュージシャンで、アメリカ、カナダでツアーを行ったと説明しても分かってもらえない。そこで、最長老の(亡くなった)ニコラエ翁がバイオリンを弾き始めた。そして、みんなが演奏し、歌い出した。やがて空港の入国審査室ですばらしいコンサートが繰り広げられることになり、結果、入国に許可が出て彼らは無事、ルーマニアに帰国することができたんです。道はまっすぐではなくても、最終的にはゴールにたどり着くという彼らの生命力を物語るにふさわしい話ですよね。
撮影は2001年のツアー同行から始まり、200時間に及んだフィルムの編集に5年を費やしました。途中、完成前のフィルムを見て、これは真実ではないと怒り出したアーティストもいましたが、みんな、編集が完了し、完成した状態のものを見るととても気に入ってくれました。この映画に登場するすばらしいアーティストたちと音楽を通じて、ロマの人たちの真実を理解していただければと願っています。
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