Vol.13
津軽とフラメンコ
フラメンコを習う人が日本には本当に多い。折りしも7月10日の日経流通新聞に「フラメンコ売〜れぃ!―多彩な融合、ショービジネスへステップアップ」という記事が載りました。記事によれば生徒数は10万人に達するそうです。
日本舞踊だってあるのになぜフラメンコなのでしょう。カンテやトーケではなく、どうしてバイレに人気が集中するのでしょう。こう訊ねられるとたいていの人は、女性がひとり、舞台で己の存在を主張する、いわば「個の発露」の手段としての魅力がバイレにはあるのだと答えます。でも、理窟なんかじゃない、素晴しいバイレをみると何だかわからないうちに体の中がざわざわして、血が躍るような感じがする、というのが本当のところではないでしょうか。もしそうであれば、この「ざわざわ」の正体が知りたいものです。
文芸評論家で『ダンス・マガジン』の編集者でもある三浦雅士さんは、踊り手ではありませんが、やはり同じような気持ちのようです。アントニオ・ガデス舞踊団の『カルメン』をみて、「手足が震え胸が潰れそうになるほどの懐かしさ」を感じたという三浦さんは、『バレエの現代』という本で、その理由をこんなふうに説明しています。
「告白すれば、しかしこのような私の印象はやや特殊なものかもしれない。というのも、作家の五木寛之さんに、フラメンコと津軽三味線は起源を等しくするという説を聞いたことがあるからである。〔中略〕ツガルの語源はツィンガル、すなわちツィゴイネルワイゼンなどにいうジプシーの意だというのである」
弘前市生まれの三浦さんは青森のねぶた祭を思い出します。日本の舞踊の特徴は地から足を離さない「舞」。基本は能にみられるすり足です。ねぶた祭もすり足で練り歩きますが、なぜかぴょんぴょん飛び跳ねる者たちがいる。踊り手はハネトと呼ばれるほどです。かつて舞踊研究者に武智鉄二という人がいました。武智によれば舞は農耕民族のもの、踊りは遊牧民族のものです。ただし「踊り」は大地に足を叩きつける仕草、ぴょんぴょん跳ね回るわけではありません。もちろん三浦さんも承知しています。
「むろんここですぐにフラメンコと結びつくわけではない。フラメンコは大地を激しく踏みたたきはしても跳びはねはしない。〔中略〕にもかかわらず農耕民というよりは遊牧民を思わせるのは、仕草のひとつひとつが激しすぎるからだ。そしてこの印象は、フラメンコが何か異なったふたつの文化の混淆から生じたと思わずにはおかない」(同書、176頁)
ねぶた祭もにも舞と踊りが混じっている。そこで三浦さんは考えます。農耕民なのにひたすら跳びはねるのは、ツガルでも似たような混淆があったからではないか、ユーラシア大陸の中央を発したジプシーが、西はアンダルシーアへ、東はツガルへ向かった、荒唐無稽な伝説ではあるけれど、信じたい気持ちがするし、なにより歓びを感じる。
証明するのは至難の業、いや、おそらく無理でしょう。しかし妄想として斥けるには惜しい魅力があるのも確かです。