「フラメンコ」そのことばをひと度口にすると、
「そうそう。あたしの周りにハマってる人が3人ばかりいるのよ」という答えが返ってくることはわりと多いものです。
実際、わたしの周囲にもフラメンコにハマっている女性が数人います。ある女性編集者さんは、
「週刊誌の編集部にいると夜遅くなるし、徹夜も多い」といって、9時〜5時と比較的決まった時間に仕事のできる部署で働けるよう、会社に異動願いを出しました。彼女は昨年の4月にようやく願いが叶って経理部に異動ができたので、今では週に3〜4日はフラメンコの教室に通っております。
またある雑誌の女性編集者さんは、月刊誌の副編集長になった33歳のときに、仕事がハードすぎて体調を崩し、いったん会社を退職しました。休養期間中にフラメンコを習い始め、元気も出てきたので、フリーライターになり、以前働いていた会社の仕事をしてレッスン代を確保しています。
「いずれは先生になって、教室を開きたい」というのが彼女の口ぐせです。
そういう彼女たちは、みなわたしと同世代の30代、そして独身であります。
ときどき、結婚(というか男性とお付き合いすること)をどうするか? という類の話もするのですが、けっきょくは、
「そうねー、フラメンコをするあたしを理解してくれる人じゃないとねー」というあたりで話は落ち着いて、その後は、いつの間にか、フラメンコに関しての今後の展望について、瞳に星をきらめかせながら語られてしまうという…。
というわけで、今いち、深くツッこんで、フラメンコにハマっている独身女性の恋愛と結婚に関して追求したことはありません。
そもそも、自分自身、中学生の時までクラシックバレエにのめりこんでいて、
「いつかジゼルを踊りたい……」
と夢見ていたので、踊る以外のことにあまり興味を持てない、という状態はよくわかるつもりです。「ハマれるものがあっていいじゃない、うらやましい!」という気持ちのほうが強いのかもしれません。
とはいうものの、たいていの女性は、
「でも、やはり結婚のことも考えるべき」と思い悩むことがあるはずです。時々は。
そこで、最後に、結婚していてフラメンコにハマっている35歳の女性の話をすることにいたします。
彼女は24歳のときに結婚し、会社を寿退社しました。子どもが欲しかったそうですが、3年経ってもできなかったので産婦人科に行ったところ子宮内膜症と診断されました。
落ち込んで、毎日泣いてばかりいるとダンナさんから、
「子どものことを思い詰めるより、自分のために好きなことをして生きるほうがいいよ」とすすめられ、会社勤めをしていたころに少しだけ習っていたフラメンコをもう一度はじめることにしたそうです。
彼女は今では、派遣会社に登録して半年間ハードに働いてお金を貯めては、3カ月間くらいスペインでレッスンを受ける。そして、3カ月は日本の教室に通って、ダンナさんを集中的にかまってあげる…。という感じで1年を送っているのでした。
この生活のいいところは、どんなにタイヘンな仕事、人間関係のフクザツな職場でも「あたしにはフラメンコのレッスン代を稼がなくてはいけない」という確固たる目的があるので、楽しく明るい気持ちで働けること。
それから、働くために生きているわけではなく楽しむために働いているんだと思えること。あとはもちろん、ますますダンナさんとフラメンコを愛せるようになったことと、彼女はいいます。
それにしても、1年間のうち3カ月間もダンナさんを放っておいて大丈夫なのかしら? と心配になるわけですが、
「それはねえ。自分の実家の近くのマンションに引っ越したことで解決したの」と彼女はほくそ笑んでいうのでした。
どういうことかというと、彼女がスペインに行っている間は、彼女のお母さまがマンションに行ってそうじや洗濯をしてくれる。また、会社から帰宅したら、ダンナさんは彼女の実家で夜ごはんを食べてもらうようにして、しのいでいるのだそうです。
「もちろん、うちの母には少ないけどアルバイト代を払っているわよ。それに、母としてもお婿さんってかわいいみたいだしねえ」と彼女はいうのでした。
しかし、自分の家はさておき、ダンナさんのほうのご両親は文句をいわないのか? 疑り深いサソリ座のわたしとしてはちょっと気になります。
「あたしはねえ。向こうのお義母さんも巻き込んじゃった。『いっしょにフラメンコを観に行きませんか? スペインを旅行しませんか?』とか誘って」
フラメンコに集中するために、家族を味方につける。賢いやり方です。
「そんなふうにあちこちに気を遣って踊るくらいなら、ひとりで気ままにやってたほうがいいわ」と思う方もいらっしゃるやもしれません。
けれど、男性を愛したり、男性から愛されたり。それにくっついてくる、イロイロな人間関係のしがらみに縛られたり、守られたり支えられたりして、たくさん泣いたり笑ったりできると、踊りにもより深みがますような気がします。
ですので、フラメンコを愛する女性にこそ、よりたくさんのいい恋をしてほしいとわたしは思わずにはいられないのでした。
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