イントロ

魔法の呪文をかけられて、お姫様と王子様は結ばれる・・・。お伽話は、おもいっきり美しくてかわいくても許されると思うんです。だって、私たち元お姫様は、お伽話では語られることのない「その後」をしらふで力強く生きて行くんですもん。


緑、気まぐれ、タイミング

私たちの物語は、海に面した世界一眺めの良い部屋に住んでいた私に、ある晩、満月が静かに微笑んでくれたことから始まりました。英国で大学院生活を送っていた私はこれからの人生で二度と会うことはないだろうなぁと思っていた、海の向こうに住む男の子に、「月がきれいなんだけど」ってメールしてみたら、しばらくして、バルセロナから封筒が届いて、水彩絵の具で描きなぐった月が出てきたんです。かわいいでしょ?… それから、一年も経たないうちに、めでたし、めでたし!

結婚式その1:スペイン

「二人だけで、ひっそり結婚したいねぇ」、という呑気な私たちのささやかな希望は、『フィエスタ大好き!気づいたら踊ってる』アンダルシア人母ちゃんの前では、赤子のたわごと同然。「二人だけ」が何百倍にも広がって、バルセロナ郊外のルイスが生まれ育った思い出いっぱいの家で、ある春の陽光あふれる一日、手作りのガーデン・パーティと相成りました。

結婚式の二日前、日本から両親到着。ここにきて、娘の旦那さんになる人に向かって「初めまして。あなたがルイスさんですか」なんてやってるうちの両親。相当娘を信用してるのか、諦めてる(?!)のか。初対面の夜、ホテルで二人きりになった時、母に向かって、「あー、良かった。やっとほっとしたぁ。旦那さん、いい人でホント良かったぁ」としみじみとつぶやいたうちの父さん。口下手で照れ屋な「日本の親父さん」のこっそりと娘を思い遣る静かな愛情を感じて、娘はほろりとしたのでした。

結婚式その2:スペイン

ルイスは、「結婚式は日本で神前式だったんだ!」とみんなに自慢しています。五月雨が新緑をしっとりと優しく濡らす中、着物姿の私たちは、今度こそ、ひっそりと結婚式。彼は、2週間の練習の成果を発揮して、妙に抑揚のあるスペイン語訛りの日本語で、1ページに及ぶ誓いの言葉を謳いあげたり、長時間しっかり正座してたため、榊を持って神棚に近づくときには、立つこともできなかったりして、笑いがこみあげてたまらなかったけど、『笑う角に福来る』で、とっても小さくて暖かい式でした。

そして二人の生活

直感と勢いだけで結婚するという危険な賭けに出たわりに、「お伽話その後」も5年目、「この人と共白髪で、日向ぼっこしたり、孫に囲まれながら、お茶したいなぁ」と思えるのは、ホント運が良かったんでしょう。

幸せな毎日

一緒になると決めた時に、「僕と一緒に生きていくってことは、海賊船に乗った冒険の連続だよ」と言われたけど、「そでも、スペイン人(というかわが旦那さんだけ?)のぶっ飛びぶりに免疫がなかった私は、「なんやこれ?!」の連続でした。一度など第一次(!)世界大戦前建造の木造の帆船に恋をしてしまい、「今すぐうちを売って、明日からこの船に住もう。世界中の港町に住もう!」という夢を実現しかけたりもしました。当時わが息子ヤンは、4ヶ月のおっぱいマン。ま、退屈だけはしませんが(笑)。

ぶっ飛び話は、キリがないのでこのへんで。

ユーラシア大陸の西の端っこで生まれ育った旦那さんは、東の端っこからやってきた裸の王様である私に、「王様は裸だ!」って言ってくれた見物人の子供みたいなもんでした。おかげで、私は、その時まで無意識のうちに自ら可能性を断ってきた別の生き方にも目を向けるようになったんです。
「ガイジン」になった私の目に飛び込んできたのは、裸んぼうになった自分の姿。初めは、あたふたしたけど、どこの国でも「ガイジン」として糧を得るのは、不利なことだらけってのは覚悟しなきゃいけません。今では自分の心に正直に自然体で生きても、「何やっても、もともと私は変なガイジンだもん」っていう気楽さのほうが大きい。

一人の人間として完結して生きたいという独立心たっぷりの私は、子供の頃から"1+1=2"のキャリアプランを考えてたんですが、旦那さんと一緒になって、何があってもずーっと味方で居てくれる人、やりたい放題に思いっきり跳んでもしっかり受け止めてくれる人がいるって気づいて、とっても自由になれた感じ。

でも、自由って本当は厳しいもの。迷うし、苦しい。で、いろいろ迷って試した後に、二人でそれぞれ得意な所をシェアしあって、"(1+1)x α"が5になり、10になるような生き方もいいんじゃないかな、って気づいた私は、少し前から旦那さんと二人で創った小さな小さなファミリー会社の女将さんになりました。昔ながらの職人一家のように地味にこつこつと、っていうのもレトロで、新しいから。そしてこんな風に生きている自分がなかなか気に入ってます。

仕事中は、真剣勝負で二人とも人格変貌するので火花散りまくりですが、お互いに、「相棒よ、なかなかやるやん」って一目置きあってます。そして、私たちの夢の一つ、二人で育ててきた長編映画がもうすぐ生まれそうって所までやっとこさ来ました、ふー。

そして、三人、いや六人の(!?)生活

私たちの夢とやりたい放題を支えてくれるのが、家族。一緒に居てくれるだけで、元気をいっぱいくれる息子ヤン。今日はニューヨーク明日はヘレスと飛び回り、いざという時には、すっ飛んできて助けてくれる女っぷりのいいカティ(ルイスのママ)。自転車二人乗りしてヤンとどこへでも出掛けるヤンの大親友アンヘル(ルイスのパパ)。戸籍上は義理の兄弟だけど、「あゆ子は、イギリス留学時代の大切な友人だよ」と、私という一個の人間との友情を大切にしてくれるダン(ルイスの弟)。三つの家に分かれて暮らしてはいるけれど、私の心の中では、いつも6人暮らし。

「いただきまーす!」元気な大声と飛びっきりの笑顔で両手をあわせる「うちの子たち」、3歳児と33歳児の二人の坊や達に囲まれて、みんなで大笑いしながらお腹いっぱい美味しいものを食べる幸せ。今日も私は、地中海的に生きて行くのであります!

3歳児と33歳児の二人の坊やたち

文 八丸あゆ子