−まずは大沼さんとの出会いのいきさつを教えてください。
実は以前から日本から仕事のオファーはたくさんあったけど、一度も受けた事がなかったんだ。なかなかやりたいと思えるプロジェクトに出会えなくてね。今年になって、友人のギタリストJINのレコーディングに参加した時に、日本で仕事をするいい相手はいないかなと相談したんだ。何か面白い事をやっていて、しかも僕の仕事をちゃんと理解してくれる人。そこで由紀の名前が出たんだ。その後、ヘレスで初めて会って色んな話をして、、、。それからしばらくして、由紀から電話でこの公演の話を聞いたときはとても嬉しかったよ。そして、初めて日本での仕事を引き受けることにしたんだ。こういう“いい仕事”を待っていたからね。信頼できる相手と安心して仕事ができるという意味の。
−ヘレスでバイレを学んだ大沼さんのバイラオーラとしての印象は?
ルビチ達との公演のビデオで観た彼女のソレア。彼女はサパテアードのテクニックに走る事なく、ギターそしてカンテをちゃんと聴いて、それを感じて踊っていた。僕はそれが凄く気に入ったんだ。こういうことができる踊り手はなかなかいないよ。それに、彼女はちゃんと自分のスタイルを持っている。伝統的でプーロでとてもフラメンコの感じられるバイレができる人だよ。
−作詞作曲もなさるそうですが、今回の公演では貴方のオリジナル曲なども聴けますか?
中身についてはこれから具体的に決めていくんだけど、きっとそういう場面はあるよ。マヌエルのパルマとハレオ、イスマエルのギターが入って、ヘレスの地も感じてもらえると思う。他の共演者(石塚氏、俵氏)とも長年の友達なので、きっといい舞台に仕上がると思うよ。
−一緒に来た二人のアルティスタについて紹介してください。
パルマのマヌエルは、まだ24歳の若さだけど、既にすごいアルティスタだよ。フラメンコのファミリアに生まれて、家族皆が歌って踊ってという中で育って来たからね。彼は気高くて無口。僕は彼のそういうところが好きなんだ。一緒に舞台に上がると言葉を越えたところで気持ちががんがん通じ合う。アルティスタとしてはもちろんだけど、それ以上に人間としての彼を高く評価しているんだ。だから、由紀にパルメーロを連れて来てほしいと言われた時に、真っ先に頭に浮かんだのがマヌエルだったよ。
ギターのイスマエルは28歳だけど、彼の弾くギターの音は、まるで60歳のベテランが弾いているような老練な響きがあるんだ。ヘレスの、僕もファミリアの一員であるパリージャ仕込みの伝統的でクラシックなヘレスらしいトケだよ。由紀からもそういう人をと頼まれていたので、イスマエルがいいとすぐに確信した。人間的にも信頼できるし、僕ら3人いつも楽しくやっているいい仲間だからね。
−今回3人が運んで来てくれたヘレスのフラメンコの持つアイレについて
ヘレスのアイレは、マドリやセビージャのものとは全く違うもので、個性をより強烈に印象づけるものだと思う。ヘレスで学んだ人は、どこに行っても一目でそれが分かるんだ。そもそもヘレスの地はフラメンコの歴史の上でもとても重要な場所。シギリージャ、ソレア、トナー、マルティネテ、、、これらは皆へレスで生まれた曲種ということからも、フラメンコの創造に深く関わってきた土地だと思う。だから、もちろん僕はヘレスのアルティスタである事をとても誇りに思っているよ。
−アルティスタとして生きていく上で大事にしている事は?
僕にとってフラメンコは「仕事」ではなくて「生き方」なんだ。だからフラメンコのアルティスタであるという事は、舞台の上だろうとどこにいようと変わりない事なんだ。よくフラメンコと関連づけて語られる闘牛の世界でも「闘牛士は闘牛場の外でこそ、より闘牛士でなければならない」と言うけど、フラメンコのアルティスタも一緒だと思う。フラメンコのアルティスタである自分は他の誰でもない、唯一の存在だから、僕の人間性からフラメンコを切り離す事はできないんだ。
−では、最後に今回の公演に向けての抱負をお願いします。
僕にとって仕事をする上で大事な事は、自分たちが作品を楽しんで意欲的に舞台に上がると言う事。お客さんが喜んでくれるものを、まずは自分達が気に入って世に送り出したい。そしてそれが、舞台に宿る魔力にも助けられて実現できたら最高だね。公演の1時間半の間、お客さんには思いきり楽しんでもらいたいからね。今まで、常に舞台上では自分の全てを出してやってきたけど、今回の舞台はさらに特別なものになると思う。そしてまた、由紀と一緒に舞台に上がれる日が来たら嬉しいな。
取材・文 M A K I K O |